1人が本棚に入れています
本棚に追加
その日、魔王が復活した。
かつて、魔王が誕生したそのとき。世界は恐慌状態に陥り、各地で虐殺が起こった。飢饉や疫病が蔓延し、人々は僅か数年で人口を十分の一にまで減らした。魔物が人里を跋扈するようになり、残された人々は生き残るため団結し、伝説の魔法を使うことで勇者を召喚、その勇者の手によって魔王は討伐された。
……とされている。
実際のところ、魔王が復活したところで彼らは彼らの国を形成するだけに留まり、人間の土地に攻めてくるのは言わば領土争いの範疇。虐殺が起こったのは、魔王の誕生にかこつけて信仰宗教が勃興し、あることないこと吹聴した結果。飢饉と疫病に関してはタイミングが悪かったとしか言いようがない。人間の数が減れば、その分、魔物が自身の領土を拡大してくるのは道理であり、改めて歴史書を紐解いて見ればそれは魔王による侵略でもなんでもなく、単純に人間がパニックを起こして自滅したようなものだったと言える。
とはいえ魔王は討伐された。
そして復活した。
「魔王を討つべく、勇者を再び召喚する」
かつての自滅の過去を反省した人間は、早々に勇者を呼ぶことにした。だが、幾度やっても失敗する。その原因は「勇者の魂を持つものが異世界で生きている」ことであった。異世界で生きている以上どうしようもない。しかし、魔王は復活してしまった。さてどうするか。
我らが司祭の下した判断は――
「我が使徒たちよ、異世界に渡り、勇者の魂を回収せよ。具体的に言うと、勇者の魂を持つものをさくっと殺してこい。死亡が確認されたらこちらで召喚式を発動する」
最初のコメントを投稿しよう!