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「やってらんねえ~」
今日は快晴、いい天気だが、口から漏れるのはため息ばかり。見下ろすこの異世界は平和そのものの世界だ。
異世界に飛ばすことのできる人数は十二人。加えて異世界に渡るには素質が必要。無論、危険も伴うために参加は立候補式。最初に声が掛けられたときは、そんな面倒なこと誰がやるもんかと不参加表明したのだが、司祭に「ちなみにうまいこと勇者の魂を回収した場合の報奨は――」と、ちらと見せられた紙面上の0の数に思わず「やります!」と言ってしまった。あとから冷静になって、そもそも自分の行く異世界に勇者の魂があるとは限らないことに気付いたのだが、それでも立候補者が百人もいれば自分は落ちるだろうと高を括っていた。
結果、適性ありの異世界行き。その世界に勇者の魂があろうとなかろうと、勇者の召喚が成功するまでは帰りを保証されないほぼほぼ片道切符の強制転移。
最初こそこの異世界で勇者の魂を回収できれば、老後の不安ともおさらばな報奨金が手に入ると意気込んでいたのだが、後日情報でこの世界が最も人口が多いと知り、一気にやる気が消え失せた。地上人口六十億っていったい何があったらそこまで人間は増えるのか。魔王もむしろこの世界に誕生した方が良かったのでは、いや、これだけの人数差では勇者関係なしにあっという間に討伐されるか。
そうして今日も今日とて、どこか別の誰かが早々に勇者の魂を回収してくれないか祈りつつ、空から地上を見下ろして――
「………………うそだろ?」
標的を見つけてしまった。
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