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≪いきなり大声を出すな、耳に悪い≫
通信越しの声は、何を怒っているんだとでも言いたげなほど落ち着き払っていた。
そう、あの妨害魔法は司祭のものだった。人の体を媒介にして異世界にまで干渉してくるとは……いや待て、それほどまでに止めなければならなかったということか。
怒りを疑問に置き換えつつ、再度司祭にどうして妨害魔法を使ったのかを問う。
≪ああ、お前の方法は良かった。交通事故でさくっと死んでくれれば良かった。良かったのだが……≫
「だが?」
≪あの少年の向かいから来る女の子がいただろう≫
「?」
標的にしか目がいっていなかったため、その向かいから来る人物など気にも留めていなかった。高度を降ろして見てみれば、標的と一緒に話をしている少女がいる。
「……あれ?」
≪そう、あの子≫
何か特別な力でもあるのだろうかと心眼を働かせるが、何も見えない。
「あれがどうかしたのか?」
≪すごく、好みなんだよね≫
よし、さくっとあのガキを殺してこの司祭も殺すことにしよう。
少年少女はこちらの事情など露知らず仲良く並んで歩いている。その頭上にちょうど良い店の看板。
「ほい」
風を起こして看板の支えを破壊し、見事に頭上に落下――せず看板は突風に飛ばされて離れた道路のど真ん中に落ちた。
「………………司祭」
突然落ちてきた看板に人々は右往左往している。それもそうだろう、今日は快晴で看板が吹き飛ぶほどの風は吹いていないのだから。魔法でも使わない限り。
「勇者の魂が必要なんですよね?」
標的も少女も、その騒ぎに呑まれて困惑しているようだ。
≪ああ≫
念を籠めた問いかけには、重々しい肯定が返ってくる。
「じゃあ、邪魔しないで頂けませんかね?」
≪いや、あの、ほんと、あの子、私の好みのドストライクで≫
「世界の危機に私情を挟むな!」
いや本当に危機なのかは知らないが、とにもかくにも勇者の魂を回収しろと命じた本人が邪魔をするとはどういう了見だ。
≪そもそも要らぬ被害を生むこともないだろう、殺すのはあの少年だけで良い≫
看板を吹き飛ばして被害を大きくしたのはどこの誰だと言いたくなるが、言っていること自体はまともである。本音と建前をうまく使いやがる。だからこそ司祭まで上り詰めたのだろうが。
「わかりました、一人になったところを狙います」
≪ああ、そうしてくれ≫
そう何度も妨害魔法で邪魔をされてもたまらない。標的は見つけたのだから、後は機会を狙えば良い。布石はもう打ったのだから。
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