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山珊瑚の娘
その時、突然嵐のような風が吹き木の葉が待った。そしてその中に一人の男が現れた。上等な白い絹の着物を着て、綺麗に櫛で梳かれたような長い髪はそのまま垂らしているが、山珊瑚採りの護だった。
「愚かな民よ。恩を仇で返すとはまさにこのことだな」
そう言って、護は宇流を抱き寄せると、「どうだ? 宇流。今度は俺と一緒に行くか?」と尋ねた。
消えゆく意識の中で宇流が微かに肯くと、護は宇流に優しく笑いかけ、それから村長達をきっと睨む。
「山の神の命を伝える。金輪際、お前達は山に入ってはならぬ。山立もしかりだ。もし山に入ったら、神の使いが現れてお前達を襲うだろう」
再び風が吹き、宇流を抱いた護はその渦の中に消えて行った。
村は再び貧しい村に戻ってしまった。
山珊瑚を探して山へ入っても山珊瑚は見つからず、獣がどこからか現れて襲ってくるので、誰も恐がって山に入らなくなった。
郡奉行は宇流の血で染めた山珊瑚の道具類を再びお城に献上したが、尚姫は領主から寵愛されることなく不遇な生涯を送った。
その輿入れ道具は血で染められた不吉なものと噂が立ち、忌み嫌われたという。
数年、数十年が経ち、村に善行を行う者がいると、どこからか女が現れて真っ赤な山珊瑚の簪や髪留めをくれるという噂が立った。
女の背格好は宇流にそっくりで、いつまでも娘のままの姿であったという。
<了>
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