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夏が、終わる。
仲間内で花火大会を見に行こうと言う話になった。男女八人で連れ立って行った。
会場近くの駅が混んでいるらしいと知って花火会場まで三十分歩いた。浴衣姿で下駄を履いていた女子三人はそれだけで参っていた。
到着した会場はメチャクチャに混んでいたが、活気と人混みで逆に女子のテンションは戻った。
鈍臭い俺だけがはぐれた。
それで探しに戻ってきてくれた親友と二人だけで花火を見ることになった。河川敷の湿気た芝の上に座って夜空に広がる大輪の花を黙って二人で見つめていた。
ドン、パラパラ。大音量が体に響いた。
隣に座る彼を親友と呼ぶには烏滸がましいと言われそう。
仲間内で行くと親に話したものの、普段から引き篭もりがちな俺を遊びに誘ってくれるのはこいつ一人。数合わせにもならない俺を、グループに引き込んでくる余計な親切。つまり俺にはこいつしか友達がいない。だからこいつを勝手に親友認定しているのは俺の方。
芝生の上に置いていた俺の手に彼の手が重なった。何かの間違いかと思って手を引こうとしたが出来なくて、それどころかギュッと握られた。
ドン、パラパラ。男同士で手を繋いでいることを、夜空に咲く花火が周囲に知らしめてしまわないか心配になった。
親友の定義はよく分からない。手を繋ぐのはこいつにとって熱い友情の証かもしれない。聞かなければこいつの気持ちは分からない。でも、聞かない。
この夏は二人で海に行った。その時は電車に乗ってはるばる往復一時間かけての小旅行だった。小さいテントの中で二人で丸まって転がった。目を合わせて、来年また来ようと約束した。受験だけどなと笑い合った。
楽しかった。良い夏だった。
実感した。こいつは俺にとって超特別。
夏が終わってしまう。その前に。
俺はこいつの手を握り返そうと思う。
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