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「いらっしゃいませ」
サロンのスタッフの声が快活に響く。
しかし明らかに客ではない二人組に場が静まる。
サロンを出ようとしていた深月も男達の雰囲気から立ち止まってしまった。
「沖田恭司さんは、いますか」
レジにいた僕に男の一人が話しかけてきた。
「僕が沖田です」
一人は僕と変わらない20代半ば。
もう一人は40代からざっくり50代ぐらい?
若い方の男は、丁寧な物言いで三ツ矢と名乗り、
そして我々はこういう者ですと手帳を見せてくる。
「刑事さん?」
「突然すみません。捜査で聞き込みをしております。ご協力願います」
小説やテレビドラマでこういった場面を見ることはあるけど、
いざ自分が聞かれる側になるとは思ってもいなかった。
僕と刑事さんの間を割って店長が入ってくる。
「すみません。沖田くん、ちょっと」
店の端に連れて行かれ、オネエの店長は僕に言う。
いかつい野郎に壁ドンされる僕…。
「ちょっとあんた、警察がくるなんてどういうこと? この前の急に帰ったことと関係あるの?」
小声ながら男の太い声でそう言うとホホホ… なんて刑事を見て笑う。
「僕もわかりませんよ。とりあえず話し聞いてきます」
「もう恭ちゃん、頼むわよぉ~…」
その呼び方はやめろと内心思いながら刑事さんの元へ戻ると、
店内にまだいた深月ちゃんと目が合った。
「沖田くん、…もしかして…」
僕らは少し前に例の同窓会で少々警察の方にお世話になっており、
その件は終わったと思っていたけど深月ちゃんが不安そうに呟く。
「…たぶん菜穂ちゃんの件じゃないと思うよ」
深月ちゃんにそう言い、書店へ帰ってもらい、僕はサロンを出て、
近くのカフェで話さないかと刑事さんを誘った。
カフェの席に座ると年配の刑事さんは、しげしげと僕を見る。
「僕、(髪も染めてる)こんな見た目ですけど悪いことはしてませんよ」
しれっと言うと若い刑事さん三ツ矢が一枚の写真を取り出した。
「この女性に見覚えはありませんか?」
写っているのは20代ぐらいの女性。
どこの飲み屋かビールのグラスを手にしている。
艶のない髪、化粧気のない顔、荒れた指先にネイルのしていない爪。
着ている服も見るからに古着とわかるもの。
美容師という仕事柄いろんな女性を見ているけど東京でここまでの人はそういない。
じっくり見て刑事さんに答え、写真を返した。
「うちのお客さんでもないし、知らない人ですね。すみません」
「そうですか…。それでは…」
話はそこで終わらず、三ツ矢はさらに写真を出してきた。
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