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第1話 姉の親友
「深月ちゃん、いつもありがとう。重いでしょ。ごめんね」
ヘアサロンの狭いレジカウンターに次々と乗せられていく付録のついた厚い美容雑誌に、
僕、沖田恭司は配達してくれた書店員北川深月ちゃんにねぎらいの言葉をかける。
「とんでもない。いつもありがとう」
深月ちゃんは小さく手を振り、笑って言ってくれる。
都心に住んでいるから実感はないけど、今や全国の書店は閉店ラッシュという。
主な要因としては読書離れが進む一方で電子出版の増加とか。
僕自身は紙の本、ペーパー寄りだけど本は場所を取るのも事実だ。
電子書籍ならスマホさえあれば、いつでもどこでも気軽に購入できて読むことができる。
(そりゃ書店は、ヤバいよね。最近発売になったあのコミックスも100巻越えたし…)
「本当に沖田くんのお店には、助かってるの。
さっきも他の配達先で定期購読は、次回からやめると言われて…」
いつも明るい深月ちゃんがしょんぼりこぼす。
「そうなんだ。…お店閉店でもするのかな。流行病もあったしね」
この辺は、飲食店に美容院などが数多く点在する。
あぁ、クリニックもいくつかあるか。
「今後は、タブレットを使うって仰ってた」
「…残念だね」
慰める言葉をかけつつ、タブレットに変える理由もわからなくはない。
一つのタブレットで何冊も読めるし、他のお客様とかぶったところで順番待ちもない。
同じ雑誌を複数人が同時に待つことなく読むことができる。
詳しくないけど費用もタブレットの方が安くつくのかもしれない。
幸い僕のいるサロンの店長は、義理人情に厚い。
お客様の年齢層が広いこともあり、深月ちゃんの書店に配達を依頼し続けている。
深月ちゃんの青山の書店から僕のサロンまでどうショートカットしても1キロはある。
週二回とはいえ雨の日も寒い日も猛暑の日も、こうして来店してくれるので、
プライベートでは友人の彼女に僕は少し申し訳なく思うのだった。
そして今日のような暑い日には必ず準備している。
「はい。これ」
雑誌代を払い、それとは別にサロンの冷蔵庫からよく冷えたペットボトルを差し出す。
毎回じゃないけど無茶苦茶暑い日には深月ちゃんに渡すことにしている。
(君の恋人から頼まれているからね)
「ありがとう。書店に戻ったら頂くね」
「うん。気をつけてね」
「あ、そうだ。沖田くんが読んでいる文庫本の新刊、今日発売になってたよ」
「新刊? 何の文庫だっけ??」
「シュレーディンガーの謎」
「ありがとう。また寄らせてもらうよ」
いつもの会話のやり取りをしたところでサロンのベルが鳴った。
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