しつこい勧誘

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しつこい勧誘

 暗い気持ちで、マンションに着いた。  起きて寝て、会社に行く。そんなことを、きっと定年まで、寿退社でもしない限り、続けるのだろう。  ブルルルル ブルルルル    そんな時、携帯が鳴った。希からだった。 「はい、もしもし……」 ーあ、真琴ちゃん?この間の話だけどね、青い鳥研究会のセミナーにね、一度参加……  またあの話だった。このところ、しつこく誘われる。  私は思わず、携帯から耳を話した。 ー幸せになれるのよ。ねえ、聞いてる? (幸せって……。あんたは結婚して子供もいて、経済的に恵まれていて。それでも、幸せじゃないの? まだ足りないの? 何が必要なの?) 「うんうん、分かった。また今度ね」  適当にあしらった。話していると、満たされるどころか、凹まされる。さっさと寝よう……。    次の日からは、オフィスワークが多かったせいか、外出はしなかった。電話での応対や、取材の受け付け、アポイントの設定などをこなした。  ただ、やっぱり自分の声がだんだん低くなってきていることが気になった。電話口でも、「真坂さん、昨日飲み過ぎたんじゃないですか?」とか、私が出てるのに「真坂さんお願いします」と言われたことが、何度もあった。  そのたびに、「ええ、声変わりが遅れてきたんです。あはは」とか「風邪をこじらせちゃって」と言って誤魔化した。  そんな風に、1週間が過ぎて行った。土日は、休みだったけど、なんだかどこへも出かける気にならなかった。  
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