すかすかブラジャー

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すかすかブラジャー

 また、月曜日がやってきた。  ヒゲが生えてきてから、1週間目の朝。朝起きて鏡を見るのが恐い日が続いている。  土日は引き籠っていた。  きょうも、目覚めて恐る恐る、鏡を見てみた。 (うわ、最悪……。結局、エステじゃ意味ないの?)  エステの効果が消えてきたのか、また上唇にヒゲが目立つようになってきた。  もう嫌って思いながらも、少し慣れた自分がいた。  そして、パジャマを脱いで、ブラジャーをしようとして、ふと違和感を覚えた。なぜか、胸とブラの間がスカスカだった。 (ん? サイズ大きくない? これ、わたしのじゃなかったっけ)  わたしは自慢じゃないがEとFの間くらいのカップがある。慌てて、自分の胸を触ってみた。サイズが大きいんじゃない、胸が小さくなっていた。掌がすっぽりと入るぐらい、ぶかぶかだ。 「うぎゃーっ、マ、マジ!」  ヒゲの時の数倍、大きな声で驚いた。わたしの身体、何かがおかしい。胸は、垂れたとか、緩んだとか、しぼんだとかじゃなくて、何事もなかったかのように、ただ一回り小さくなっていた。 「本当に、大変だわ。どうしよう、どうしよう」  どうもこうもない。とにかく胸パッドを増やして、会社に向かった。先週はしないで済んだマスクも、きょうからまたせざるを得なくなっている。  いつものように、オフィスに出て、メールチェックしていた時、携帯が鳴った。新日本新聞の葉梨だった。 「どうも、先日はありがとうございました。きょうの朝刊に載ってますんで、見てください」 「本当ですか?ありがとうございます。いつ掲載になるのかって、すごく気になってたんで」  いつもの調子で言ってみた。すると、葉梨からも同じ反応が返ってきた。 「真坂さん、本当に真坂さんですか? 男みたいな声ですよ。あのお医者さん、行ってみました?」  言われてみて気付いた。声が低い、というより、だんだん男の人の声に近付いているような気がする。 (やっぱり、そうなんだ。わたしの声、男みたいに低くなってるんだ) 「真坂さん、行ってないのなら、本当に行ってみてくださいよ。稀代の名医ですから」   男みたい……。  そう言われて、わたしは気もそぞろになった。身体に起こった異変が、深刻なものだと思うようになった。なんだか、リアルにおじさん化してる気がした。  当然、仕事は手に付かない。会社を早めに切り上げ、葉梨に勧められた医者に行ってみることにした。  
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