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治す方法がないけど、治る?
「治す方法がないのに、治るって、どういうことですか」
「分からないんだけど……。ただ、完治した患者のデータを見る限り、共通項がただ一つだけあるってことが、分かったの。そこに、謎を解くカギがあるかもしれない」
何のことだか、さっぱり分からない。教えてください、とわたしは言った。
「それは、ご自分が『心の底から自分が幸せだ』と思うことができた人だけが、完治しているってことなの」
すごく抽象的だった。じゃあ、いまわたしが、幸せだと思えば治るってことなのか。
「オス化症候群は、一種のホルモン異常だと考えられてるのよ。人間は子宮の中で、全員最初は女なの。それがある時期にホルモンが出て、男になる。それが数年前から、なぜか胎児じゃなく成人してからそれが起こるような症例が見られるようになったことが原因じゃないかって推測されてる」
「じゃ、じゃあ、女性ホルモンを注射してください、たっぷり」
わたしは、先生にすがった。
「それが女性ホルモンは効き目がないの。唯一、効果があるのは、幸せなときに感じる特殊なドーパミンだけらしいのよ」
ドーパミン……。そういえば、そんなもの最近出たことあったっけ?
「どうすれば、その特殊なドーパミンが出るんですか?」
「それは、その人次第ね。その人が、『心の底から自分が幸せだ』と思うことができた瞬間に、それは大量に、確実に出るものなの」
恵田先生と、わたしの問答は、それから約2時間続いた。一種のカウンセリングのようなものだと思う。
(幸せ……。希ちゃんがしきりに言う青い鳥の会に行けば、幸せになれるって言ってたけど)
あの会に行けば、希ちゃんが、幸せを分けてくれるかもしれない。そんなことが頭をよぎった。
「あのう、先生。青い鳥研究会って、ご存知ですか?」
「青い鳥? ああ、あの新興宗教のこと?」
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