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無粋な男
「す、すみません。ここで座禅させてもらえるって聞いてきたんですけど」
お坊さんが、シィーっと人差し指で口を押さえた。
「ええ、もう始まってますよ。さ、少し深呼吸をして、気持ちを落ち着けてから、こちらへどうぞ」
丸座布団をもう一枚、用意して、男の人にこちらへ、と合図した。
(す、すみません)
男は、座禅には慣れているらしく、さっさと両足を太ももの上に乗せるという荒技を成し遂げ、結跏趺坐という姿勢を取った。結局わたしは、半分しか足を乗せられなかった。
(この人のせいで、かなり心が乱れちゃったわ)
イライラしながらも、また数を数え始めた。
座禅を組んで、半分目を閉じ、再び数を数え始めた。
(やっぱり、色々と浮かんでくる)
雑念を消すのって、難しいわ……と思いながら、薄めでチラリと隣の男を見てみた。
(あら、意外に姿勢良く座ってるじゃない)
さっきのどたばたぶりからは想像も付かないほど、静かに、落ち着いて座っている。と、そこへ。
お坊さんが、警策を持って、わたしの背後に立った。
パシン
雑念にまみれているところを見抜かれたのか、肩を打たれた。
(一生懸命、数を数えよう。せっかく来たんだし)
わたしは、数を数えるという単純な作業に没頭した。
しかし、だんだん足が痺れてくる。痛くて痛くて、それどころじゃない。数を数えるのも、だんだん忘れてきて、「痛い」という意識だけが頭を支配した。
痛さと格闘していた、その時。
チーン、チーン、チーン
鈴っていうの? 鐘って言うの? とにかく金属音が鳴った。これで、終わりらしい。最後の方は、足が痛いってことだけが気になってしょうがなかった。
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