人類の目的は、セ◎クス!?

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人類の目的は、セ◎クス!?

「と、いうと?」 「つまりは、生殖行為に尽きるということです! セ◎クスですね!」  私は、目を丸くして、顎が外れるかと思うほど驚いた。 「ちょ、星仏さん、やめてください! 声が大きいですよ!」  私は顔面から火が出るほど恥ずかしかった。  ところが、星仏はそれが耳に入らないのか。 「集団として子を産み、育て、またその子が子を産む。この単純な構図を永遠に続けること、それがありとあらゆる生物が目指す唯一の究極の目的……」  演説は、無限ループに突入した。要は子孫を残すってことでしょ……。悪かったわね、わたしは子孫残してなくて。  前菜が運ばれてきた。京料理は、繊細で仕事が細かい。それを次々に、口の中に放り込んだ。  私は演説を途中でぶった切った。 「だけど、人間には出産子育て以外にも、働いたり旅行したり、趣味の時間を持ったりって、自分の生活や人生を充足するっていう目的もあるんじゃないですか?子供生むことだけが、唯一絶対普遍とか、ちょっと違うんじゃないかと思いますけど」  星仏は「ん?」という顔をして、料理を頬張り続けている。  確かに、生き物の共通の目的は、子孫を残すことだと思うけど、人間はそれだけじゃないと思う。笑ったり、泣いたり、怒ったり。喜んだり、悲しんだり、楽しんだり。色んな感情があるし、色んな経験をして、充実した人生を送るっていうことも、みんな同じように目的にしていると思う。  気まずくなった。その雰囲気を打ち破るように、タイミングよくメインの湯豆腐が運ばれてきた。 「これが、当店自慢の湯豆腐でございます」  部屋中に、湯気が染み渡った。議論を忘れそうになるぐらい、おいしそうだ。星仏は、うーんとうなりながらも、熱々の豆腐を、鍋から救い上げた。 「ここの湯豆腐は、絶品なんですよ。真坂さんも、熱いうちに」 「ありがとうございます」  ひと口、ふた口食べてみた。さすが、京都の名店だ。桁違い、なのか分らないけど、とにかくおいしい。おいしい物を食べることも、生物としてだけじゃない人間としての、楽しみだし、意味だと思う。 「ね、人間は子孫繁栄だけじゃないでしょう?おいしいもの食べたり、楽しく過ごすのも、普遍の目的だと思いますよ」  星仏は、それはそうですね、と言ったきり、ひたすら豆腐を食べ続けた。気まずい空気のまま、時が流れた。
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