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あなたと、一緒に
「そ、そうじゃないんです。人間のもうひとつの目的は、幸せを求めることなんじゃないかと、思ったんです」
「そりゃそうでしょう。わたしだって、幸せ探してますよ。誰だってそうでしょう。あなたは、今ごろ気が付いたんですか?」
いい歳して……。勉強ばかりしているとこうなるのかしら。
「ち、違います。難しいんですが、人間という種としてではなくて、個としての人間のぼくの目的が、分かったんです」
「へえ、それは何ですか」
「真坂さん、あなたと一緒にいたいということです!」
えっ-。
意外だった。生物のことばかりで、わたしに興味がある素振りすら見せなかったのに、なんで?
星仏は、わたしの手を取り、突然、ぎゅうーっと抱き締めてきた。
「ちょ、ちょっと。急に何するんですか! やめ……」
と言い掛けて、わたしは気づいた。星仏は泣いていた。でも、なぜ泣くの?
「なぜ、泣くの?」
星仏は、言った。
「真坂さん。あなたはきっと、ホルモン異常で男になりつつあるんでしょう。生物学者のぼくには分かります。そういう生物も、中にはいるんです。両性具有というんですが」
げ、見抜かれてた……恥ずかしい。ていうか、「そういう生物」とか「両性具有」とか言うのやめてほしい。
でも、なぜか逆にほっとした感じもした。
「それは、現代の医学では治せないでしょう。ぼくは医者じゃないから、何もできないかもしれない。でも、なんとかして、真坂さんの力になりたいっ……」
泣きながら、声を絞るように、星仏は言った。わたしも、思わずもらい泣きした。
いや、星仏の言葉に、心を動かされて泣いたのかもしれない。
「う、ううん。いいの、ありがとう。そう言ってくれて、すごく安心したわ」
2人で、ワンワン泣き続けた。
この人は、私のために泣いてくれている。
私は、この人と同じ時を過ごして、最高の笑顔をつくることができた。
わたしは、わたしは-。
しばらく、泣き続けた後、星仏は照れくさそうに、
「ごめんなさい、もう遅いから帰ります。夜遅くに、本当に、ごめんなさい」
わたしにこれでもかと言うぐらい、謝って、待たせてあったタクシーに乗って帰っていった。
「……ったく、横浜からここまで…。タクシーに、一体いくら使ったのよ、あのバカ!」
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