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第50話『悪魔の姿』
「てめえが本物だオラァ!」
俺はなんとなくそれっぽいと思った一人の腹をパンチした。
「ほがっ!」
俺に腹を打たれたダンタリオンが地面に膝を着くと、他のダンタリオンは消失した。
もったいない、一人くれ――とは思わない。
思うヤツいるのかな?
「な、なぜ……? マグレに決まっている! 今度こそ!」
口元を拭いながら、ダンタリオンは再び増えた。
今度は十人になった。
「てめえっぽいぞ! どりゃあっ!」
多分こいつかなぁと感じた一人にローキックをかました。
「いったぁー!」
キックを食らったダンタリオンはふくらはぎを押さえながらしゃがみ込む。
他のダンタリオンは消えた。
どうやらまた正解だったらしい。
「な、なんでオレの幻術を見破って攻撃を当てられるんだ!?」
「勘だよ」
「勘でここまで正確に見破られてたまるか! ウソつくんじゃねえええっ!」
「しょうがねだろ、わかっちゃうんだから!」
ふざけた言いがかりをつけてくるなんて。
とても失礼なヤローである。
「ぐっ、くそぉ……想定外だ……こうなったら奥の手を使うしかねえ……」
ダンタリオンは懐から一冊の本を取り出した。
ちらっと見えたが、星占いのハンドブックのようだった。
占いが趣味なのかな……?
「ヘアッ!」
ダンタリオンはそう叫ぶと、右手に持った本を頭上に掲げた。
何をしようってんだ?
「デエェェイヤァァァアァッ!」
雄叫びとともに、ダンタリオンの背中から黒い蝙蝠のような翼が飛び出した。
こ、これは……!?
翼だけではない、肌の色も青紫色に変色し始めた。
さらに大胸筋や僧帽筋、三角筋に大腿四頭筋、その他すべての筋肉が大きく膨れあがってダンタリオンは別人のような肉体に変貌を遂げていく。
やがて、パンパンに盛り上がった胸の真ん中から青色に輝く水晶が隆起してきたところで彼の変身は終わった。
「まさか、オレ様に悪魔の姿をさせるとはな。だが、この姿になった以上、お前に勝機は一ミリたりともなくなった!」
段田マッスル君になったダンタリオンはやや高くなった身長から俺を見下ろしてそう言った。
「お前、その身体だと強くなるのか?」
「おうともよ!」
「さっきの人間の姿よりも頑丈なのか?」
「当たり前だ! 今までのヌルい打撃がこの状態のオレ様に効くと思うなよ? 魔界にいた頃ほどではないが、肉体の強度は地球のいかなる兵器も通用しないレベルだ!」
「ふうん、じゃあそこそこ強い魔法を食らっても即死とはならないわけか」
俺はなるほどと頷く。
「はんっ、あれっぽっちの魔法しか使えないやつが、ソロモン72柱に名を連ねるオレ様に通じる魔法なん――ダボへッ!?」
俺は衝撃波的なものをダンタリオンに食らわせた。
江入さんの鎧を壊したのと同じやつね。
若干威力は弱めたけど。
「馬鹿かお前は? 最初の魔法は人間を相手にするんだから力を抑えてたに決まってるだろ?」
「力を……抑えていただって……!?」
「今のお前は悪魔並みの強度らしいから、本気とまではいかないが少し強くしておくぞ」
俺は鋭い視線でダンタリオンを見つめながら使う魔法を選ぶ。
「く、クソッタレがああああああ!」
ダンタリオンが叫びながら指をパチンと鳴らした。
すると俺の足下がグラグラと揺れ、ライブ会場の床がバラバラと崩壊を始めた。
左右からは炎の柱が噴き出してくる。
「これは……」
「ハハハハッ! 奈落の底に落ちていけッ!」
「…………」
俺がパーンっと柏手を打つと、足下の崩壊は止まった。
炎の柱も消え去り、崩れていた床も何事もなかったかのように元の状態に戻っていた。
「ど、どうやったらオレの幻覚をそんなあっさりと打ち消せるんだよ!?」
ダンタリオンは困惑の声を上げる。
「気合いだ」
「オレはマジメに訊いてるんだっての!」
こっちだってマジメに答えているというのに。
失敬な男である。
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