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第53話『勝敗』
「あーあ、しかし、なんか白けたな? 続きをやるって雰囲気でもなくなっちまったぜ」
「まあ、そうだな……」
着信のアニソンで俺も力が抜けた。
恐らく、アレは元の人格である段田理恩君の趣味なのだと思われるが。
「とりあえず今回はお前の勝ちってことで終わらせてやるよ、借りもできたしな」
「あっそ……」
もともと勝敗は着いていたに等しかっただろとは突っ込まない。
理由は一つ。
めんどくせーからだ。
「段田君……?」
寝ぼけたような声が床のほうから聞こえた。
ダンタリオンの子分の一人が眠りから覚めたようだった。
マウンテンハットを被っているからアレは右腕のゴムだな。
「悪い、見ての通りだ。オレは負けちまったよ」
ダンタリオンは負けたにしては爽やかな表情でゴムに告げた。
すると、
「うわああああ…………」
ゴムは号泣し始めた。
「泣くな、ゴム。男だろ?」
「段田君……! だって…………服が!」
そう――あえて何も触れていなかったが、悪魔形態になって身体が膨張したダンタリオンの服は下着のパンツ一枚を残して弾け飛んでいた。
よって、彼はパンイチ。
ほぼ裸状態なのであった。
「安いもんだ、服の一枚くらい……」
ニヒルな態度で言ってのけるダンタリオン。
いや、一枚どころじゃないと思うけど……。
むしろ一枚しか履いていない。
「とりあえず、負けを認めたなら鳥谷先輩や風魔先輩を狙うなよ。というか、今後は馬飼学園に何もしてくんなよ?」
「ああ、わかったぜ……」
後日、自分のシマと女にちょっかいを出されそうになった新庄怜央がブチギレ、段田理恩を全裸に剥いて謝罪させたという話が不良界隈で広まるのだが――
そんなことは微塵も知らない俺だった。
「はあ、疲れた……」
どうにか事態を丸く収めることに成功した俺は、祝勝会をやろうと提案してきた花園三人衆の誘いを断り帰宅。
自室に入ると、江入さんが俺のノートパソコンでユーチューブの動画を見ていた。
何見てるんだろ。
宇宙人が興味を示す動画とはどんなものなのか。
少し気になって覗き込む。
「…………」
画面にはピザを食べながらジムのトレーニングマシンを使っているおっさんが映っていた。
「それなに……?」
俺が訊ねると、江入さんは画面を食い入るように見つめたまま――
「プラネットフィットネスの紹介動画」
簡潔にそう答えた。
「面白いの……?」
「是。特にピザイートクランチと無負荷クランチの部分は何度見ても癒やされる」
これ、癒やしを目的に作られた動画なのか……?
もしかして宇宙を感じるのかな?
プラネットってついてるし。
帰れなくなった宇宙を少しでも感じていたいとか、そういうことなんだろうか。
その後、風魔先輩から『キック・アスという映画がオススメだ。ぜひ今度見て欲しい』というメッセージが送られてきたので適当に返信して俺は寝た。
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