3話:記憶

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3話:記憶

 一ノ瀬(いちのせ)里緒奈(りおな)。  記憶喪失をした状態で見知らぬ地に放り出され、住所も苗字も分からないまま自宅を探していた。  そこから一人の男に出会って共に過ごし、給食をきっかけに住んでいる地域を探した。  食育の賜物と思う一方で、二人の着眼点には脱帽である。 「私がリオナです」  黒髪ロングの褐色美人。  丁寧な口調、堂々とした姿勢。 「今日はありがとうございます。紗斜(しゃしゃ)と申します。そちらの方が蒼汰(そうた)さんですか?」 「はい。ここはリオナさんの家を特定したきっかけのカフェです。元々給食用のパンを作っていたそうで」  妹様は『知っていることを吐かせろ!』とのこと。  リオナさんたちはむしろ被害者だし、情報収集が目的だ。 「大変でしたね。食事代はもつので、話を聞かせてください」 「それは悪いですよ。シャシャさんは本事件を解決してくださる方ですから」  ……ここまで舞台は整えたから宇宙人を捕まえてこい! とでも妹様は言ってきそうだ。  話を聞いて情報を集めてほしいと言われていたが、ダイレクトメッセージを交わす中で救世主のような扱いになってしまっているのだろうか?  話が進まないので解決を目指して情報収集する正義感の強い人のふりをする。  実際は妹に押し付けられたことをこなすだけだが。 「記憶にある範疇で家に着くまでにどのように移動していたか、過ごしていたか聞いてもいいですか? また、あれから同じ状況の方々と連携を取って何か分かったことがあれば聞きたいです」 「分かりました。経路については、」  知らない地で何日か歩いて心身ともに限界だったときにさんと出会ったこと、それから二人で手掛かりを探しながらそれなりに楽しい日々を過ごしたこと、リオナさんは居候する中で迷惑をこれ以上かけたくないって思ったこと、ソウタさんが給食で食べた郷土料理を作ったことで家を探すきっかけを得たこと、家を見つけたこと、それから個人情報が見つからず今も困っていること、ソウタさんと付き合い始めたことを聞いた。  最近は同じ状況の人々をSNS中心で探し、三人見つけたことも報告してくれた。  あとはリオナさんが母にどこへ遊びに行くかを話していたことで、遊びに行った山を特定することもできた。山火事になっており、現在は立ち入り禁止らしい。 「その火事の生存者の方とは連絡を取っていますか?」 「全く取っていません。火事になったから急いで逃げた方みたいで。行方不明の方があまりにも多い印象です」 「私の妹が宇宙人の仕業に違いないと言っていましたが、その証拠になるようなものってありますか?」 「山火事で片付けられていますが、実際には事件だと思っています。記憶を失って、個人情報があらゆる場所から消されていたので。宇宙人という考え方は分かりませんが」  リオナさんはパンを齧って言う。  ソウタさんは話を聞いて頷きながら、コーヒーを啜っていた。  この規模の火事でまともに捜査をしていないことなどあるのか?  それでもほぼ行方不明者だ。  生存者はいない。   亡くなった方も見つからない。  妹様が不審がるのは当然だと思うけど。  他にも話を聞かなければ分からない。  それに、実際に山に行かないと。
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