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5話:突撃
アツタカさんとウタさん、リオナさんが遊びに行った山に行くことになった。
はい、いつも通り妹様のせい。
事件のせいで本当は一般人立ち入り禁止。
というか、バスも直行便がないので結構歩くことになる。
人遣いが荒いと暴れていたら、私も行くから良くない? 的なことを言われた。
宇宙人に会いたい! らしい。
立ち入り規制のせいで夜中に忍び込む作戦だ。
うん、妹様はめちゃくちゃであるが、自分で行きたいと言ったということは。
「私宇宙人に会うのは初めてかな。楽しみ!」
宇宙人がいる前提なのだろう。
好奇心が強く天才である一方で、単純な嗅覚にも優れている。
うちの妹様は好奇心がくすぐられるものがあれば、それを満たさなければならない。
放置していると癇癪を起こす。
今回の山火事の一連の話は誰かが作った物語だと思っていた。
特に妹様が、宇宙人がいると騒いでいたこともあって、より胡散臭いと感じていた。
しかし情報を集めるなかで、核心に変わっていく。
本当であれば妹の好奇心を削ぐような言動をしても良かった。
妹様はその手のことには気づいてしまうかもしれないが。
それ以上に私は、妹様にどうにかしてほしかったのかもしれない。
本当に天才なのだ。
アツタカさんとウタさんにトラウマが植え付けられ、リオナさんはまだ記憶も個人情報も戻らないでいる。
被害者に関してはもっといる。
宇宙人の目的は分からないが。
「今から行くところって、一人で遊びに行くような場所ではない。そう思わないかい?」
「そうだね。何が言いたいの?」
妹と電車に乗る。
山火事の件から客は減ってしまったらしく、元々人気のある観光地ではあったが、車内で簡単に座ることができた。
以前の混雑で最弱の体幹を持つ妹様が電車に無事に乗れるはずもなかったため、空いていて良かったというのが素直な感想である。
「リオナさんは気づいている。母が山に遊びに行く話を聞いていたと言っていた。母は言わないようにしていただけで、友人の存在に気づいているね」
「言われてみればそうだけど」
ふざけたことを言っている、妹に対してそう思っていたが。
長椅子に座る妹は、足をコツコツと鳴らして、爪を噛んでいる。
怒りだ。
「人類を馬鹿にして、私が許すと思うかい?」
妹様は立ち上がって吊革に手を伸ばすが届かない。
手すりを握る。
バスのある駅に着いて停止すると、手すりから手が離れて顔から転びそうになる。
姉である私がしっかりと受け止めたけど。
「さあ、宇宙人を見に行こう。お姉ちゃんの報告資料を見て、大体分かった。現地に行って確かめたいことがある」
「分かった」
バスに乗り換えて。
さらにバスを降りて歩く。
立ち入り禁止のテープがあったが、そこには誰もいない。
「山火事の責任とか、その他の責任をどう逃れたと思う?」
「個人情報はすべて消した。そして、火事になったのは夜。家族連れはほぼ帰っている。ニュースにはなってしまった。行方不明者も多い。一方で個人情報を消したせいで、誰も行方不明になったという連絡が来ない。馬鹿にしている」
「その通りだよ。だから確かめに行く」
集めた情報通りに。
建物はほとんど焼けてしまっている。
まずは洞窟を目指した。
アツタカさんとウタさんが言っていた壁画を見つける。
「山の神。この山はね、集めた情報によると山火事は人為的なものばかりだった。古い木を燃やして、祭りのようなことをして、焼畑農業みたいなことを数回した。それを生贄の儀式だと勘違いされた。それで今回の事件は発生した。人類を征服するつもりだよ」
「どうやって?」
妹の案内に従って進む。
そこには文字が焦げて見えなくなった看板があった。
妹様は空間上にディスプレイを表示する。
「自作の人工知能の力! 復元って魔法みたいだろ? これで光の道が見える」
……二手に分かれた道、これって。
「直接この道は使えないだろうけどね。おそらくウタさんが星を見た場所。洞窟の場所、看板の場所、ウタさんたちが逃げた場所」
妹は空間ディスプレイ上に地図を表示してマーカー機能を使う。
「人間を集めるために、夏休みを待って一番人が集まる時期に仕掛けてきたんだよ。目的はネットワークによる社会そのものの脆弱性。簡単な理由、少ない数で人類を征服するためにね。文明レベルの話をしたと思うけど、タイプⅢの銀河系レベルのエネルギーを利用できる、銀河系内を移動できるとして、地球のように支配できる惑星はいくらあると思う? 僅かな個体数で征服するのはそういった理由だね」
「優秀な妹様は、一体に何に惹かれて、どうして私に情報を聞き出してもらったわけ?」
「ネットワークから個人情報を消去して社会に衝撃を与える。チンダル現象のときも行ったけど、光の軌跡を見るためには光を散乱するために軌跡上に何かを置いて干渉する必要がある。賢いことをしてきたと思うけど、私にヒントを与えたら負けってことを教えるつもりだよ。お姉ちゃんが」
……え?
妹様は得意げな表情で胸を張って答える。
「私がお姉ちゃんにストレスを与えたのはこの日のため。ストレス発散するときが人は一番強いと思うんだよ」
ということで、妹に案内されたには明らかに木が全く生えていない不審なスペース。
土を払うと金属板が出てきた。
妹様は金属板に線を繋ぐと、空間ディスプレイで操作し、ウィーンと扉が開く。
「宇宙人小さい。それに、手錠を付けられて眠らされている人間まで」
宇宙人は五体いた。
リオナさんの言っていたように私たちの半分ほどの背で、角のようなものが一本生えている。全身は緑色で、口や鼻は大きい。
耳は犬のように垂れ下がっていた。
空間上にディスプレイを表示して何か操作をしている。
手錠を付けられた人々は口から米粒を垂らしていて、目には光が全くない。
一体がもう一体の上に乗った。
瞬間、人間の姿に変化する。
残り三体も同じように人間の姿になったが、大男になっている。
「オキャクサマ、ココハタチイリキンシデス」
笑ってディスプレイに触れると、捕まっている人々の前に無数のディスプレイが表示され、そこにレンガの壁が映し出される。さらに周りに合わせて変化し、近くで見てもただの壁で、その先に捕まった人々がいるとは思えない。
「はい、お姉ちゃん。発散、発散」
妹はキラキラした目で私にボクシング用グローブを渡す。
私は宇宙人にパンチを炸裂した。
元の姿になって倒れた。
ディスプレイが解除されて壁が消える。
「じゃあ帰るよ。警察も救急車も呼ぼう」
「お姉ちゃんの扱いひどくない?」
妹の手のひらで踊らされるのは嫌だけど。
見せ場があったのはまだましだ。
と思うだけ、この妹様に毒されている気がする。
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