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1話:振り回される
九月中旬の土曜日、ファミリーレストランにて。
大学二年生の私は残り少ない夏休みの使い道を決めたと、中学一年生の妹に言われて。
どうやら夏休みにやり残したことがあるらしく、姉の私にやれとのことらしい。
妹は小柄で、もう秋に差し掛かるというのに裸足のままゴムサンダルを履いている。
黄緑色の短パンと黒いシャツを合わせて、机の上に私が大学で借りた専門書を広げている。
中学では始めは外見からモテていたらしいが、大学レベルの教科書を常に持ち歩いている変人で、姉に専門書を借りさせてくる。
「文明は滅びと再生を繰り返している」
「オーパーツだよね? 今の技術でも実現できない技術。アインシュタインさんが第三次世界大戦はどんな兵器が使われるかは分からないが、第四次世界大戦は石と棍棒で行われると言っていたように、核戦争などで一度技術がリセットされて今があるとすれば、オーパーツがあることを説明できるってことでしょ?」
「うむ。人間が高度な文明を維持できる環境を失って、ごく僅かに生き残り、また繁殖して文明を立ち上げる。これでは人類は惑星文明まで文明レベルを上げることはできない。それ以上はとてもね」
惑星文明レベル。
天文学者ニコライが発展レベルを示すスケールを考えたというもの。
タイプⅠでは自分の惑星のエネルギーをすべて利用できる、タイプⅡでは恒星や惑星系のエネルギーを利用できる、タイプⅢでは所属する銀河系のエネルギーを利用できる、タイプⅣでは複数の銀河系のエネルギーを利用できるというもの。
想像に難くないことではあるが、今の人類はタイプⅠにも達していない。
見つかっているオーパーツさえも文明レベルとしては今より高くてもタイプⅠには達していなかったというのが、うちの妹様の考えであるが。
「本題は?」
「宇宙人が侵略に来ている。つまり文明としてはタイプⅠを超え、タイプⅢ以上に該当する技術を少なくとも一部所有しているということになる。つまりね、お姉ちゃんには宇宙人を探してもらいたいんだよ」
「探せって言っても」
「見える情報を集めるしかない。当事者しか分からない。光の経路は目に見えない、でも確かにそこにあるもの。光の軌跡が見える魔法、それはこちらでも観測できるかどうかが大事ってことだよ」
妹様は『コロイド溶液』の紹介とともに説明されている『チンダル現象』を指差す。
水に光を当て続けても光の経路は見えない。
だがうまく水と溶けない牛乳や墨汁であれば、光を散乱する。
散乱した光があらゆる方向で観測されるため光の軌跡が見える。
「夏休みに私は何をするの?」
「宇宙人に関わった人から情報を集めて宇宙人を探し、その目的を調べろってことだよ」
「第四次世界大戦だの、惑星文明だの、チンダル現象だのよく分からない話なんてせずにストレートに説明してよ」
「お姉ちゃん、夏休みで思考力が落ちているのではと思ってね。脳トレだよ?」
うん、私の妹様はかわいくない。
ハンバーグ食べたり、パフェを食べたりしていても、あまり幸せそうじゃないし。
ドリンクバーはすぐにメロンソーダとコーラを混ぜたりして、どの色が強く出るか見ているし。
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