電話ボックス

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「ひっ!」 俺はガシャンッと強めに受話器をフックに押し付けて電話を切った。 開けっ放しだった入り口から飛び出したが、すぐに足を止めた。 ドアを開けたままだと何かが出てきてどこまでも追いかけてきそうな気がして、硬いドアを閉めた。 ーーキィィ、バンッ! 乱暴にドアを閉めて車まで走る。 鍵をかけないまま、エンジンをかけたままだったことが幸いして、すぐに車を発進させられた。 きっと鍵を閉めていれば鍵をさすのに手間取っただろう。エンジンを切っていればエンジンをかけるだけで数分はかかったかもしれない。 そのくらい手が震えていた。 手の震えを押さえつけるようにハンドルを強く握った。 バックミラーは怖くて見れなかった。 そのまま坂道を速度オーバーで下る。 警察がいたら止められたかもしれないけれど、運よくと言っていいのか、そもそも人が通るような道でもなかった。 ようやく車の速度を落とせたのは、車通りの多い道に出てからだった。 赤信号で止まった隙に恐る恐る見たバックミラーには、映ってはいけないようなものは映っていなかった。 「……はぁ」 信号が青に変わり、俺は車を発進させた。 この出来事がきっかけで、俺はしばらく自分から誰かに電話をかけることができなくなった。 あの番号にかけなければ大丈夫。 そう思っても、もしもあの女性のアナウンスが流れたら……、もしも低い低い地の底から聞こえるような声がしたら……。そんな恐怖が俺の心臓と喉を締め付けた。 了
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