電話ボックス

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喪服のスラックスのポケットから財布を取り出し小銭を漁る。 綺麗とは言い難い受話器を持ち上げ、少しだけ耳から離して構える。 小銭の投入口から10円玉を数枚入れる。 かける電話番号は親友と約束した日に聞いたし、なんなら電話番号をメモった紙を強引に財布に突っ込まれてそのままだった。 それを思い出した俺は財布から少しくたびれたメモを見つけ出した。 懐かしい文字で書かれた電話番号をプッシュする。 ーープルルルル、プルルルル。 コール音がなり、心臓がドクドクと激しく脈打った。 ーープッ。 コール音が途切れる。 ……本当に繋がった。 よくよく考えれば、衝動的にこんな山奥まで来てしまったが、あの噂話が本当である確証もない。 『どなたにお繋ぎしますか?』 落ち着いた女性の声が聞こえた。 これは……。 あの噂話の真実味が帯びてきた。 俺は親友の笑った顔を思い出しながら口を開く。 「波崎(はざき)祐正(ゆうせい)」 『少々お待ちくださいませ』 女性の声が告げ、そのまま静かになった。 保留音が流れることもなく、ただ受話器の向こうに誰かがいる気配がした。
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