電話ボックス

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「れ、霊界って本当にあるんだな」 何か言わなくては、と言う思いから祐正が生前気になっていた話題を出した。 霊界があるのか知りたいという思いから交わした約束だったから。 『何もないけどな』 「そうなんだ。……なんて言うか、全然、お前が死んだって感じしないな。ほら、今も電話してるしさ」 『……』 「あ、えっと……あ、そうだ。お前に貸してたビデオさ、あれ、取りに行っていいか?」 『あぁ。返せなくて悪かった』 「いや、べつにお前は悪くないって」 祐正らしからぬ元気のない声。短い言葉。 昔から俺よりもお喋りで、楽しそうにべらべらと喋っていたのに。 本当に俺が今話している相手は祐正なのだろうか。 声は間違いなく祐正だ。俺の名前も知っていたし、約束のことも知っていた。 それなのに、なぜだか疑ってしまう。 「あ、あのさ……あの……。俺、祐正と友達になれてよかったよ」 『あぁ、オレもだよ』 「……今までありがとう。楽しかった。本当に、楽しかった」 またな。 その一言で終わらせようとした。 俺もいつかは死ぬのだし、そうなればまた祐正と会えるような気がしたから。 感謝はしている。 同時に、早く電話を終わらせたい気持ちもあった。 向こうはそれを悟ってしまったのかもしれない。 『なぁ』 呼び止められてしまった。
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