帰心矢の如し

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「ようやく……ようやくここまで帰って来たか」  ヤシャタ族を率いる長、パウロは腕の中で眠る幼い娘ルナを見ながら、呟いた。  僥倖により絆を得たルナの腕の中には、幻獣の子が娘同様に眠っている。  父娘そろって大事なものを抱えこむ格好だな、と思い至ったパウロの顔がほころぶ。  思い返せば、怒涛の如く過ぎ去った日々だった。  待望の我が子ルナが生まれ、喜びに沸き立つ間もなく、告げられた娘の疾病。  それから始まる苦闘の日々――パウロも妻サラもルナの命を諦めなかった。  症例を調べ尽くし、薬を取り寄せ、ルナの症状に合わせて少しずつ取り入れていく。  そのおかげか幸いにしてルナは大きな発作を起こすことなく、スクスクと愛らしく成長した。  その間もくまなく手を尽くし、ルナの疾病を打開できるような方法を探し続けた。  そして、それが隣国で叶うやもしれぬとの情報を得、旅立ったのだ。  パウロとサラの願いは叶った。  旅立つ直前、ルナの付添いがサラからパウロに代わるという事態が生じたが、夫妻の願いは同じ。  どちらが隣国へ赴こうと、最善を尽くすのは分かりきっている。  パウロはサラにそれを誓い、その誓いは果たされた。  パウロは胸を張り、妻のいる館へ帰る途中なのだ。  やっと、やっと愛するサラのところへ――――しかし、その時。
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