帰心矢の如し

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 どうして、何故俺に双子であったと告げなかったのだ、サラ?!   館へと疾走する馬を駆りながら、パウロは歯を食いしばった。  出産に危険はつきものだが、双子ともなれば、その危険度はさらに跳ね上がる。  山岳地帯を治める一族で双子を無事出産した者など、過去を振り返ってみても数える程しかいない。  ルナに付添い、隣国へ旅立つ寸前に判明したサラの妊娠。  急きょサラと役割りを代わり、領主代理を父母に任せての旅立ちだった。  双子であると知っていたならば、サラの側を離れなかった――?  いや、そうなれば、ルナはどうする……。  もっと早く帰れば、良かった?  それでも、それならば、ルナのあの縁は結ばれまい。  ああ、どうすれば良かったのか――――?!  恐らく、自分がこう苦悩することを予測した上での、サラの隠し事であろうことは分かった。  パウロの目に涙が浮かぶ。  早く、一刻も早く妻のところへ。  パウロが率いる精鋭部隊が駆けていく。  療者イシュ=レトカの、隣国5本の指に入る療術の腕前という看板は、伊達ではなかった。  息も絶え絶えに館へとたどり着いたイシュだったが、患者であるサラと対面した途端に顔つきが変わる。  テキパキと周りに指示を出し、懸命にサラへ施術を繰り返す。  イシュは何とかしてねじれてしまった双子の位置を戻そうと、ありとあらゆる方法を試していた。  パウロ達が館へ到着してから、半日が経った。  それ以前からこの難産に耐えていた、サラの限界は近い。  サラの部屋の外で蹲り、祈りを捧げていたパウロのところへイシュがやって来た。  イシュの顔にも、疲労の色が濃く浮かび上がっている。 「……パウロ様。どうかご決断を。サラ様は、うわ言のように何度も何度も何があっても双児を優先させよ、と仰られます。もはや、ほとんど意識もないのに――何とか母体もと、手を尽くしましたが、双児の位置が戻りませぬ」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加