瞳に咲く花

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 源右衛門兄さんの技を一度でいいから見てみたい。清七は作業場で花火作りに没頭する源右衛門兄の姿を思い浮かべた。  翌朝、手習い所の前には案の定、文次郎が待ち構えていた。権造のほか、三人の舎弟を連れている。 「持ってきたか?」  佐太郎が虚勢を張る。 「も、持って来たぞ。だけど、こ、これは店の火薬を使ったんだ。絶対に誰にも、しゃ、しゃべらないと約束できるか?」 「ああ、しゃべらねえよ。もったいぶらずに早く出しな」  文次郎が餓えた野犬のような目を向けた。  佐太郎はその目に急かされるように懐に手を入れた。線香花火の束を取り出すと、文次郎がいきなりそれを奪い取った。 「ひい、ふう、みい、よお…。十本か。さすが花火屋だ。へへへ…、ありがたくいただいておくぜ」  文次郎は眦を垂らして花火を愛でる。もう佐太郎には目を合わせない。  その日、手習い所では佐太郎と清七はいつもよりもずっと師匠に近い場所に膳を置くことを許された。  清七はうれしくなり、何度も師匠のところへと教えを請うた。  それからしばらくして佐太郎と清七はあるじ弥兵衛に呼ばれた。 「清七も手習い所へ通うようになったのだから、今日から作業場に入りなさい。夏はうちの店の書き入れ時だ。佐太郎といっしょに線香花火を作るのを手伝いなさい。お前は手先が器用だ。一生懸命やればすぐに覚えられる」  あるじの部屋を出て、清七は小躍りした。  もう隠れてこそこそと線香花火を作らなくてもいいのだ。どうどうと作業場で花火が作ることができる。それに作業場には源右衛門兄貴だっている。源右衛門兄貴の花火作りだって間近に見ることができるのだ。  鍵屋の作業場は二十畳ほどだ。奥の正場と手前の雑場とに分かれている。
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