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事情があって子どもを育てられなくなった親がその噂を聞きつけては鍵屋へと子どもを預けに来た。
源右衛門をはじめ、弥兵衛にはそういう子どもがすでに三人いた。清七は四人目であった。
弥兵衛は子どもを置いていく親にはきっちりと言った。
「ひと度、子どもと縁を切ったら二度と子どもの前に姿を現さないでいただきたい。それができやすか?」
それを約束することが子どもを引き取る条件であった。弥兵衛はその親が引き続き、江戸に住むことも許さなかった。
初めのひと月、清七は泣いて暮らした。周りの者達も清七が父への思いに潰されて、体を壊すのではないかと心配した。それほど清七は泣いた。
弥兵衛は黙っていた。
「泣くだけ泣かせておきなさい」
親から話された子は皆、そうであった。弥兵衛は食事だけはしっかりとらせることを妻のフキへ言いつけ、孤児たちの世話はフキに任せきりだった。
ある朝のこと。
朝飯を終えると、清七はいつものように表に出て泣き崩れていた。通りの行く者も見慣れた光景に誰も振り向かない。
「本当の父さんに会いたいんだろう」
そう声をかけてきたのは五歳年上の源右衛門だった。
「ここ鍵屋にはな、お前と俺を含めて四人の孤児が暮らしている。でも、みの吉と平作の奴らは、ここに来たのは二歳より前だ。親の顔も覚えてねえ。それに比べて俺達は五歳で連れてこられた。そりゃ、俺だって始めは寂しくて毎日、泣いていたんだぜ」
清七は、涙で腫れ上がった眼を源右衛門に向けた。
「本当なの?」
源右衛門はこの時十歳だったが、小僧の中では線香花火作りが一番達者だと弥兵衛からお墨付きをもらっていた。清七は陰ながらすごい兄さんだと尊敬していた。
その源右衛門も鍵屋に来たときには泣いてばかりいたという。
「俺とお前は仲間だぜ。困ったことがあったら何でも俺に言いな」
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