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佐太郎が思わず俯いた。
と、文次郎の右の拳が佐太郎の腹に入った。
「うっ」っという低いうめき声が上がり、佐太郎の膝が折れた。
汚い奴だ。親の威光をふりかざしやがる。
清七は実の父親がいないだけに余計に腹が立った。
弥兵衛父さんはたしかに勧進元には頭が上がらないのかもしれない。
しかし、いくら頼まれたって、父さんが火薬を横流しなどするはずがない。
文次郎だってそんなことは分かっているはずだ。佐太郎兄さんは手習い所で自分がいじめられていることを父さんに知られたくないだけなんだ。こいつはその弱みにつけこんで兄貴をいたぶりやがる。
このままいくと文次郎の要求は次から次へと際限なく膨れていくに違いない。
どこまで俺たちをいたぶりやがるんだ…
そう考えると清七の腹の中が燃え上がるように熱くなった。
清七は視線に力を込めて文次郎を睨んでいた。
年嵩の文次郎にそんな目を向けたのは初めてのことだった。
権造が清七の視線に気がついた。
「なんだ、この小僧まで、痛(いて)え思いをしてえらしいぜ」
清七から恐怖の色が消えている。
「もう佐太郎兄さんを苛めるのはやめろ。佐太郎兄さんはお前達なんかのためにこれ以上、花火は持ってこないぞ」
文次郎が眉根を寄せて清七を見た。
「やめろ、清七。歯向かうな」
「花火屋にしては、おもしれえ小僧だ。どうせこいつも孤児(みなしご)なんだろう? おい、権造、わからせてやれ」
権造が清七の首根っこを持ち、清七を持ち上げた。
「やめろ、何をする!」
清七は喚いた。清七も手をやたらと振り回した。すると、その一発が権造の顔面を捉えた。権造が思わず手を放したので、清七はすぐさま権造の顔めがけて拳を放った。鼻っ柱にもろに入った。
権造が蹲った。
それを見た佐太郎も目が覚めたように、文次郎に掴みかかった。
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