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「この野郎! いつも弟の前で俺をいじめやがって」
日ごろの鬱憤を晴らすように文次郎に殴りかかった。
四人が入り乱れて、揉み合いになった。
喧嘩見たさに、手習い所から見物の子ども達が流れ出てきて四人の喧嘩を取り囲んだ。輪は膨れ上がり、行き交う人々も混じって、やんやと囃し立てる。
緒戦は佐太郎と清七が握ったものの、もみ合いが長引けば文次郎と権造にかなうはずがない。すぐに形勢は逆転した。
四半刻もしないうちに、佐太郎と清七は鼻血を出して大の字に転がる破目になった。
勝負を見極めて見物人達が散っていった。
散っていく子ども達の背中の中に首ひとつ大柄な背中が混じっているのを、清七は見た。それは二人組で、一人は紺の絣模様で、もう一人は白黒の横縞模様。どこから見ても目に付くいでたちだった。
見物人たちが去った後、文次郎が切り株に腰を下ろし、息を整えながら言った。
「こいつら、俺達をてこずらせやがって…。言われたものを持ってこねえともっとひどい目にあうぜ」
文次郎と権造がそういい捨てて、去った。
しばらくして佐太郎と清七は起き上がった。佐太郎がすがすがしそうに言った。
「へへ…。やられちゃったな。で、でも、清七、お前なかなか勇気があるな。あの権造を、ほ、本気で怒らせやがった。俺もたくさん殴られたけど、少しは殴り返して気もちが、は、晴れたぜ。ははは…」
佐太郎の晴れ晴れした笑いが空に渡った。
「これだけ殴られても平気だったんだ。もう、殴られるのも怖くねえよ。兄貴、もうあいつらの言いなりになるのは止めよう」
清七が着物の土をはたきながら、佐太郎を説き伏せるように言った。
「そうだな」
佐太郎が返事をした。
翌日、手習いの片づけが終わると、案の定、清七は文次郎に呼び止められた。
呼び止められたのは、佐太郎でなく清七だった。
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