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「で、どこの奴らだ?」
清七が黒目を細めて文次郎に問うた。年齢差がすっかり逆転してしまったかのような口の利き方だった。
「わからねえ。見たこともねえ奴らだ」
清七は青ざめた。火薬の行方が分からないのでは話にならない。
三人の頭上に重い空気が降りた。
そこに権造が来た。
顔色を変えている文次郎を見て、不思議そうな顔をしている。
訳を聞いて権造も顔を青くした。権造も柳町のはずれの小さな料亭の次男だ。家に迷惑がかかる話だと聞けば、身がすくむ。
「そういやあ、俺は奴らの話を少し聞いた」
権造が文次郎と分かれた後、その青年二人と行く方向が同じで、後を付ける形になったという。
「奴ら、でけえ声で『明日、石川島で爆発させてみようぜ』って言ってた」
「本当か!」
清七が叫んだ。
すっかり四人の気もちがひとつになっている。
四人はその日の手習いをほったらかしにして、大川に向かった。
文次郎と権造は料亭の屋根舟に乗り、清七と佐太郎は鍵屋の猪(ちょ)牙(き)船に乗り込んだ。
店の船を勝手に出せば、大目玉を食らうところだが、この際、仕方がない。
佐太郎が慣れない手つきで艪を操る。
子ども達の乗った二杯の船が神田川の出口に差し掛かった。船番所の役人が疑い深げな目を向けていたが、鍵屋とゐな垣の屋号を見て、見過ごした。
神田川を出た二杯の船が大川を下った。ちょうど引潮らしく、船はするすると順調に進む。新大橋、永代橋をくぐると前方に石川島が迫ってきた。
文次郎が手を上げて清七たちに合図を送っている。
文次郎の指す方を見ると、一杯の猪牙舟があった。
たしかに石川島に向かっている。
目を凝らすと、艫では白黒の縞模様のずんぐりした身体が櫂を握っているのが分かった。みよしには紺の着物が座っていた。
あれだ。
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