瞳に咲く花

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 清七は艫の佐太郎に身をかがめるように合図した。  川の出口に近づくと急に風が出てきた。 やつらはの船は潮風に対抗するのに必死で、こちらには気がついていないようだ。  およそ二十間の間をとって清七たちは慎重に船を進めた。  猪牙舟は石川島の浅瀬に乗り上げた。青年らは船を岩に舫って上陸した。  清七の猪牙舟と文次郎の屋根舟も岩場に着けられた。  四人は急いで船を岩に縛りつけ、陸に上がった。 呆けたような景色だった。だだっ広い敷地に点々を野草が茂っている。  清七らは茂みに隠れながら様子を伺った。潮風が清七達の気配を消してくれている。 青年らが向かい合ってかがんでいる。導き縄に火をつけようとしているらしいが、風が邪魔をしてうまくいかないようだ。 六尺ほどの導き縄の先に、佐太郎の渡した菊模様の巾着袋が無造作に置かれているのが見えた。 まずい、もう火をつけるつもりだ。  清七が茂みから飛び出し、駆け寄った。  文次郎、権造がすぐに後に続き、佐太郎も慌てて飛び出した。 「待て!」  青年二人が清七の声に気がついた。  清七が喚く。 「その火薬のことで話があるんだ」  突然現れた小僧らに怪訝な顔を向けている。 「それは俺の店の大切な火薬だ! 返してくれ。返してくれないと俺達はひでえことになるんだ。だから、頼む」  近くで見ると紺絣の方は眦がかみそりのように切れ上がり、見るからに喧嘩っ早そうだ。  ずんぐりした白黒の縞模様のほうでも、権造よりも上背がある。 「小僧四人が俺達になんの用だ」 「俺達の火薬を返せ!」  文次郎が清七に続いて声を上げた。 「そんなに返してほしければ返してやろう。ただし、俺達から奪い取ってみな」  いくら四人懸かりでもとても歯がたちそうにない。  ひとつ間を置いて、清七が意を決めたかのように叫んだ。
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