3人が本棚に入れています
本棚に追加
この距離で爆風を受ければ皆、命はない。青年らはたじろぐ様子を見せない。やはり火薬の爆発力を知らないのだ。
導き縄の先端は確実に火薬へと進んでいく。
「さあ、早く逃げねえとそろそろ爆発するぜ」
紺絣のその言葉に誰も動かない。逃げれば負けだ。逃げれば火薬は爆発して跡形もなくなる。
にらみ合いが続く。
小さな炎が風に揺れている。
導き縄は残り二尺。
清七の息が荒くなる。時が止まってほしい。
「あぶないよ。あぶないよ」
佐太郎がふやけた声を上げながら、足踏みを続けている。
残り一尺。
誰も動かない。
清七の喉奥が燃えるように熱くなった。
ちらりと文次郎を見ると、額に脂汗を浮かばせて、胸で呼吸をしている。
「あぶないよ、あぶないよ、もう逃げたほうがいいよ」
佐太郎の足のばたつきが速さを増している。
このままでは全員とも頭も身体も粉々にぶっ放されちまう…
「ぼくはいやだ!」
佐太郎が踵を返して走り出した。
そろそろ危ねえ。仕方ねえ、逃げるか…。
と、清七が思ったその時、
ターン!
鼓膜が張り裂けそうな乾いた破裂音が広がった。
全員が腰を抜かし、気を失ったように呆然となった。
そこに、一人の男が着物の裾を捲り上げて疾風のごとく駆けてきた。
「源右衛門兄さん!」
清七はそう声を上げたはずだが、破裂音が耳の中でうなっていて、自分でも何を言ったか分からない。
源右衛門が、残り三寸になった導き縄を巾着の口から引き抜いて、投げ捨てた。
「危ねえところだったぜ」
源右衛門が息を整えている。
「俺が来るのがあと二呼吸遅かったら、おめえら全員、身体が砕け散っていたぜ」
最初のコメントを投稿しよう!