瞳に咲く花

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 青年らは源右衛門の半纏の胸にある「鍵屋」の字をまじまじと見つめている。それでようやく清七の言葉が本当だったと悟ったらしい。二人とも唾を飲み込み、顔をひきつらせた。 「おめえら、今の音をもう一発見舞ってやろうか」  源右衛門が懐から卵ほどの大きさの玉を取り出して見せた。  青年らはそれを見て後ずさりした。  源右衛門に連れられた清七と佐太郎が店に帰ると、ちょうどその日の作業を終えた通いの職人が店を出るところだった。 源右衛門は職人達の前で、何ごともなかったかのように振舞う。  作業場は職人達の熱気も去って、森閑としていた。 三人は薄暗い作業場に入り込み、火薬を麻袋の中へと戻した。 「今回だけは俺の胸のうちにしまっておくことにするぜ」  源右衛門の潜めた声に、清七と佐太郎はもう一度、うなだれた。  清七が源右衛門に小声で問うた。 「それにしても源右衛門兄さん、あの破裂音はすごいね?」 「あれは空砲さ」 「あれも花火なの?」 「ま、花火って言えねえこともねえがな。光はでねえで、音だけが派手に鳴る仕掛けになってるのさ。とにかくでかくて、甲高い音が鳴るから、渡世人であろうが相撲取りであろうが、耳元でやられれば大抵は一発で腰を抜かすぜ」  源右衛門が押し殺したように鼻で笑った。  その空砲にも負けないほどの剣幕が響いたのはその晩のことであった。  剣幕の声の主はあるじの弥兵衛。  夕餉の時にはひと言もしゃべらなかった弥兵衛が、宵五つが過ぎたころ、源右衛門を自室に呼んだ。  店中の者があるじの声に驚き、廊下に集まり耳をそばだてた。  もちろん、清七も佐太郎もいる。 「おまえはそのような人間だったのか」 怒声の後、弥兵衛の低い声が障子の向こうから流れてきた。源右衛門の声はない。
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