瞳に咲く花

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 かつて、花火の期間になると大橋の上は座り込んで花火見物する人々で溢れかえった。皆が座り込むので、通行に支障を来たすようになった。町奉行所は見かねて、花火の期間中、大橋の上で座りこむことを禁止した。もう何年も前のことである。以来、大橋に座り込むものはいない。 が、最近、その禁を破るやくざ者が出没し始めていた。下っ端の者たちが上の者の命令でやっているらしい。  仕返しが怖いのでだれも注意できない。町奉行の下っ引きも袖の下を受けているので、見てみぬ振りだ。  清七は、数日前のみの吉の言葉を思い出していた。 「今度あいつらが来たら絶対に許さねえ。皆が決まりを守っているっていうのに、あいつらだけはどっかりと座り込んでいやがる」  清七より二つ年下のみの吉の目は正義感に燃えていた。 「しかし、みの吉。それは奉行所の仕事だ」という清七の言葉にも、みの吉はむっつりとして言葉を返す。 「俺達の仕事は花火を見物しにきてくれた人たちが楽しんでもらえるようにすることだろう、清七兄貴」  だったら、そんなやくざ者を追い払うのも鍵屋の仕事だと言う。  そう言われると、清七にもみの吉に返すうまい言葉がみつからなかった。 清七はそんなみの吉のまなざしを思いながら橋の中腹へと駆け上がった。 奴らだって上の者からの命令でやってるんだ。そう簡単には引き下がらねえだろう。面倒なことにならなきゃいいが…  橋のいただき付近で人だかりが見えた。野次馬が輪を作って、興奮した声を上げている。  派手にやってるらしいや…  清七がうんざりとしながら、ひとり、またひとりと群集をはがすようにしながら、輪の中にたどり着いた。 みの吉は馬乗りされて、一方的にやられていた。  揉みあいは一対一だが、相手は二人だ。もう一人がすぐ後ろに待ち構えている。
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