瞳に咲く花

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 みの吉の野郎、よくも、こんなにでかいの二人を相手にしたものだぜ…  みの吉の鼻っ柱の強さに、清七は半分、頼もしくも思いつつ呆れた。  相手の歳は清七より三つ、四つは上だろう。みの吉から見れば五つ、六つ上になる。 頭のてっぺん近くで結んだ髪を見せつけるようにして振り乱している。はだけた着こなしといい、喧嘩慣れしたその目つきといい、見るからのやくざ者の下っ端だ。 「みの吉!」 清七の声が響く。 馬にされたみの吉は「兄貴!」と歓喜の声を上げた。  野次馬から声が飛んだ。 「次の花火までまだたっぷり時間があるぜ。花火の余興で喧嘩を見せるんだったら、派手にたのむぜ」  清七が、「うるせえ! 今、おもしれものを見せてやるぜ。黙っていやがれ」と啖呵を切り、もう一人の方めがけて飛び掛かった。  おみよがそれを見届けてもう一度、大橋の西詰めへと踵を返した。  清七よりも頭一つ体格の違う相手だ。どうみても分が悪い。  清七とみの吉は飛び掛っては殴られ、掴みかかっては投げ飛ばされた。橋の上は野次が飛び交い、次第に人の輪が膨れ上がっていく。  そこに、ひときわ大きな怒声が鳴り響いた。 「どきやがれ!」  どすの利いた声にたちまち群集は割れ、一条の花道ができた。 それを聞いた下っ端の二人が飛び退くようにして喧嘩を止めた。 「十兵衛親分!」 下っ端達は清七たちを無視するように背を向けた。腰を折って親分らを出迎える姿勢になっている。十兵衛と呼ばれた親分は一歩一歩と足を大きく横にせり出しながら、肩で風を切ってくる。お付らしき小男と用心棒らしき武家の二人が従っている。下っ端たちは急いで着物を調え、媚びた笑顔をつくった。  清七が思わず叫んだ。 「おい、お前ら、まだ勝負はついていねえぜ」
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