瞳に咲く花

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 下っ端二人は、その言葉にも振り向きもしない。腰を低くしながら、十兵衛の一行を確保しておいた見物場所へと導いている。  下っ端のその態度で、清七は頭に血がのぼった。 「まだ勝負はついてねえって言ってるんだ。この野郎、勝手に喧嘩を終わらせるんじゃねえ!」  そう叫びながら、清七はもう一度、下っ端の一人に頭から突っ込んでいった。構えていなかった下っ端は腰が砕け、膝から落ちた。  それを見て、みの吉ももう一人の方に突っ込んだ。こちらもまともだった。二人の下っ端が相次いで倒されるのを見た親分の十兵衛が清七らに視線を向けた。  剃刀のような目が清七に噛みついた。 「・・・」 十兵衛が清七を見据える。 暗がりの中でも分かるほど首筋に大きな傷跡が見えた。 十兵衛の眉間に深い皺がよっている。 すげえ迫力だ… 清七はその眉間の皺に吸い込まれそうな感覚に陥り、額が熱くなった。 身体は小柄だが、目の据わり方がどこからみても渡世人のそれだ。 これが本物のやくざか…  今さらながら、清七に一抹の後悔の念が浮かぶ。 十兵衛の用心棒が、親分を守るようにして歩を進め、身体を十兵衛の前に割り込ませた。ひょろりと上背があるが、用心棒の割には身体が華奢だ。それに精一杯、眉根をよせているが、口が半分あいて間の抜けた感じが漂っている。 けっ、用心棒の方はたいしたタマじゃなさそうだぜ… 清七と用心棒との間は二間。 「これ以上、親分の花火見物を邪魔しねえでくれねえか。痛い思いはしたくねえだろう」 そう啖呵をきって左足を踏み出し、腰の二本差しをこれ見よがしに見せた。 なるほど身体は細いが刀があるって訳か…、 おもしれえ…、二、三発ぶん殴って逃げるか。まさか、腰の物を抜きはしねえだろう…。  そう思ったが、清七の思いは見事に裏切られた。 用心棒がおもむろに鯉口を切ったのだ。
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