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清七の声がときめいた。
「そうさ。俺がつくったんだ」
商売用の線香花火は朱に染まった和紙を使っているが、佐太郎の手にあるのは白い和紙を縒ったものであった。
「でも、火薬はどうやって?」
花火作りの作業場から火薬を持ち出してはいけないと、父親からきつく言われている。それに、火薬の使用量は作業場の職人に厳しく管理されている。
「へへへ…。清七、誰にも言っちゃあいけねえよ。や、約束できるか」
清七はうなずいた。
「店で使い終わった火薬袋を片付けるときにな、ふ、袋の中に僅かに、火薬が残っているのさ。そ、それを少しづつ集めてな…」
火薬袋の後片付けは佐太郎の役割だった。
「と、十日もすればこれだけ、た、貯まるんだぜ」
佐太郎はいつになく興奮している。頬が朱ばみ、どもりが激しくなる。
「へー、それで佐太郎兄さんが自分で作ったのか」
弟の関心を引いて、佐太郎はますます得意気になる。
「いいか、清七、こ、このことは、だ、誰にも内緒だぜ」
火薬の管理は店の重大な仕事のひとつだ。火薬は公儀から特別に卸されたものだ。たとえ微量であっても外に漏れれば店はきつい咎めを受ける。
だから番頭も職人達も火薬の管理には念を入れている。
清七のような小僧でもそのことは知っていた。
佐太郎が火打ち箱を取り出し、自分で作った線香花火に火を入れた。
シュルルル…と心地よい音と共に火を孕んだ赤い玉が膨れ上がる。まもなく橙(だいだい)の松葉がパチパチと小気味よく音を立てながら、枝を散らした。
清七は息を呑んで見つめた。
やがて紙縒りは短くなり、赤い玉は吸い込まれるようにして消えた。
「きれいだぁ」
清七は心を奪われたように佐太郎の手元から目を離さない。
陽は高く、辺りは明るいが、それでもまばゆい松葉の閃光が瞼に焼きつく。
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