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「それっ!」
突然、みの吉が用心棒の足元に小粒のかんしゃく玉を投げた。
パン! パン!と弾ける強烈な音が橋の上に渡った。粉が飛び散り、煙が舞った。
用心棒の左手が、顔に飛び散る粉を防ごうと、刀から離れた。
「うぬらぁ」
用心棒の目の色が変わった。
みの吉がもう一発、かんしゃく玉を投げた。
再び破裂音が耳を劈(つんざ)く。
かんしゃく玉は用心棒の右腕に当たり、用心棒は思わず刀を放し、チーンという金属音が橋に渡った。
清七がそれを見て、用心棒にめがけて飛び掛かった。
用心棒は気がつき、咄嗟に身をかわした。その時、清七の右手にあった差し金が用心棒の身体にぶつかり、手から離れた。カラランという鈍い金属音を立てて差し金は転がり、用心棒のすぐ脇にとまった。
しまった…。弥兵衛父さんからもらった大切な仕事道具だ。蹴り飛ばされて川に落ちたら二度と見つからねえ…
その思いが頭を掠めるや否や清七の身体は差し金に向かって飛びついていた。
それを見た用心棒が、咄嗟に刀を拾い、清七めがけて振り下ろした。
「清七!」
源右衛門が叫びながら、木刀で清七の身体を守ろうと、腕を伸ばしながら身体を投げ出した。
取り囲む群集が一斉に息を呑み、橋の上に静寂が降りた。
しばしの間の後、源右衛門のうめき声が夜空に渡った。源右衛門は清七に覆いかぶさるようにして倒れている。
用心棒が二の太刀を振り下ろそうと振りかぶった。
次の太刀で源右衛門と清七の体から血が吹き出る。野次馬の誰もがそう思ったその時、
「やめろ!」
という低く、重い声が渡った。用心棒は振り下ろしかけた刀を止めた。
「うう、う、うー…」
源右衛門が倒れたまま、悲痛の声を上げている。
見ると、源右衛門の腕の先から夥しい血が流れているではないか。
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