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そんな噂が広がり、鍵屋の悪評が江戸中に知れ渡るところとなった。
これには弥兵衛も焦れた。
店の者を集めて叱咤するが、作業場の活気は戻らない。
清七はひとり責任を感じていた。
俺は店に迷惑ばかりかけている。いっそのこと居なくなっちまったほうがいいのではないか…
弥兵衛が源右衛門を呼んだのはそんなある日のことだった。
「おめえがいつまでもそんな湿った面をみせていたんじゃあ、店はいつまでも変わらねえ」
「……」
「そこでだ。お前(めえ)に新しい仕事を用意した。今後は番頭の仕事を任せる」
「俺が番頭を? ってことは、金勘定に役人との交渉でやすか…」
源右衛門の顔が冴えない。
「新しい道で鍵屋を大きくするのだ」
「……」
金勘定など花火師の矜持がゆるさねえ、とそんな顔だ。
「それはそうと、ひとつお前に聞いてもらいてえことがある」
弥兵衛が話を転じた。
源右衛門が目をしばたいてあるじの顔を見た。
「病み上がりのお前には幾分込み入った話になるがな…」
「何でやしょう」
「実はな…」
弥兵衛が丸金十兵衛から持ち出された話を、千両という金額は出さずに話した。
源右衛門が黒目を開きながら弥兵衛に迫った。
「で、親父はどういう了見でやすか?」
「丸金組といえば、そこそこ名の知れた組だ。伝(つて)を使って色々と嗅ぎまわってみたが、世間の評判もそれほど悪くねえ。そこまで見込まれているのであれば、いっそのこと清七のためにもなるんじゃねえかとも思っているところだ」
源右衛門の目の色が変わった。
「親父、その話を進めるのを待ってくれやせんか」
「なんだ、お前、止めるのか? お前の腕がそんなことになちまったのも、ひとつにはあいつのせいだ」
「それとこれとは話が違いやすぜ、親父」
源右衛門が即座に返す。
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