3人が本棚に入れています
本棚に追加
清七はの目つきは、火薬を溶かすように鋭くなり、小刀も差し金も自らの食指のように操るようになった。
一方、竜太ら三人の兄達の気もちは収まらない。
清七は兄貴達からつらく当たられるようになった。やがて、それがいじめへと変わるのに時間はかからなかった。
朝、清七の分だけ飯の盛りを少なくされる。
銭湯へ行くのも清七だけが仲間はずれにされた。
草履を隠されたり、水汲みの当番を多めにやらされたりするのが日常のようになった。
しかし清七はひとつも不平を言わなかった。
少しくらい嫌な目にあっても、源右衛門の脇で花火作りに専心していれば嫌なことは忘れることができた。
日が経つにつれて、清七の天賦のものは誰の目にも明らかになった。源右衛門も清七の火薬をいじる手つきに、打てば響くものを感じる。
二人は周りの物が見えなくなったかのように花火作りにのめりこんだ。
ふた月が経った頃、清七は手牡丹(手持ち花火)を完全に自分のものとした。普通なら覚えるのに三年は掛かる仕事だ。
それから、源右衛門は打ち上げ花火の手ほどきを始めた。
寛政十一年(一七九九)が明けると清七の修行はますます激しいものとなった。朝は明け六つ(日の出の時刻)には作業場に座り、昼の飯の時間ももったいないと言い、作業場で火薬の混じった握りを口に放り込むようになった。
二年で清七を一角(ひとかど)の花火師に育てなければならない。
弥兵衛とのその約束を思う度に、源右衛門の態度は一層、厳しいものとなる。とり憑かれたような源右衛門の眼が清七の手つきの一瞬の迷いも見逃さない。手順を間違えれば拳が飛び、少しでも気に入らない手つきには竹のへらが撓った。そのために清七の右腕はいつでも真っ赤に腫れ上がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!