瞳に咲く花

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膳を中央に置くか、隅に置くかは子どもの世界の力関係による。身分や親の身代の大きさも影響するが、それだけではない独特の力関係がある。体力や言葉の巧みさだけではない、そこには世渡りの縮図とも言うべき、様々な精神的な要素が絡み合っているのだ。 清七は思った。  ここに座っていても師匠が見に来てくれる回数も少ない。質問することだってできない。 清七は何とかして師匠の近くに膳を置けないものかと思った。 通い始める前、佐太郎兄さんは「師匠は優しいし、友達もたくさんいる。文字や算盤も楽しい」と言っていた。しかし聞いていた手習い所とはどうも様子が違う。それにどう割り引いても佐太郎兄貴が楽しそうにしているとは思えなかった。  佐太郎は手習い所が終わると、逃げるように屋敷を出たがる。 とにかく乱暴な子供たちに絡まれないようにしたいのだ。   清七が手習い所へと通い始めてひと月ほどがたった日だった。 「よし、終わった。清七、帰ろう」  その日も逃げるように屋敷を出ようとした。  そんな佐太郎の態度を文次郎らが見逃さなかった。 そそくさと逃げようとする佐太郎を舎弟の一人が待ち伏せた。 「文次郎さんが話があるって言ってるんだ。まさか逃げるわけじゃあねえよな」 「に、逃げるもんか。早く帰って仕事の手伝いをしなくちゃいけないんだい。なあ、清七」  清七は話を合わせてうなずいた。  そのうち文次郎が来た。 「この前の花火の話、覚えてるだろ」 「ああ、お、覚えてるさ」 「いつ持ってくるんだよ?」 「そ、そのうちさ。仕事が忙しくて、は、花火を作る暇がないのさ」  虫の居所でも悪いのか。その日の文次郎は妙に苛立っていた。文次郎は佐太郎に身体を寄せ、首に手を回して抱き寄せるようにした。
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