瞳に咲く花

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「兄貴、本当に大丈夫かい…」  弱気の虫が出る。 「すぐに、も、戻るから、しっかり見張っていろ」  佐太郎が声を潜め、暗くなり始めた作業場に足をいれた。 真っ暗な作業場の中でごそごそを音を立てている。  清七の心臓が張り裂けんばかりに胸を打つ。 清七は泣きたくなった。  佐太郎兄さん早く。早くしないと大人が来ちゃうよ… そう心の中で叫ぶが、佐太郎はなかなか戻ってこない。  どれくらい経ったのだろう。佐太郎が戻ってきたときには清七の掌は汗でじっとりとしていた。  二人で表へと急ぎ、店の裏へと回った。 佐太郎は眼を見開きながら、「見ろ」と僅かに残った西日の中で包みを広げた。  ひと握りの黒い粉が輝いていた。 「これだけあれば十本はできる。今日は運良く、仕分け箱の中に、か、火薬が残っていたんだ。大丈夫だ、か、火薬袋(麻袋)を開けていないから、ば、ばれやしねえ」  佐太郎の言葉は自信に満ちていた。清七は胸をなでおろした。手習い所にいる時の佐太郎兄さんとは別人のように頼もしい。清七は佐太郎の顔を満足げに見上げた。  佐太郎が懐から細長い方形の和紙の束を出した。 「いいか、つ、作り方を教えるから、よく見ていろ」  佐太郎は長細い方形の和紙を一枚広げ、その端の方だけを半分に折り、折り目をつけた。その折り目に沿って小指の爪の半分ほどのわずかな火薬を置いていく。黒い火薬が折り目に沿って線を描いた。  佐太郎は器用な手つきで火薬を包み込むようにしながら和紙を縒る。  ひとつ線香花火が出来上がった。 「お前もやってみろ」  見よう見まねで清七は和紙を捻じる。  もともと清七は手先が器用であった。和紙の半切作業も熨斗(のし)の貼り付けも大人と同じようにできた。 清七の線香花火は何とか形になった。が、火薬の部分が膨らんでしまっている。
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