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飴玉先輩の迷言
「あっ、凧先輩だ」
凪が二年一組の教室に戻ると、真っ先に桜が声を上げた。
「おーい、タコ野郎先輩~」
桜は純粋に煽っているのか、それとも普通に煽っているのか、そんなやたら明るい声で堂々と凪を煽った。
凪はニッコリと笑ったあと、クワッと目を見開き、「飴玉先輩とお呼び」と桜を一喝。
ヒィ、と桜は美麗の背中に隠れる。
その美麗は腕組みをし、凪を嘲笑していた。
「……して、どこに貴様の隣に乙女がいると?」
美麗の嘲笑に対抗し、凪は哄笑。
美麗は不快そうに顔を歪ませた。
「遠山氏、さてはとち狂ったか」
彰人はそう言うと、合掌。
凪は彰人に怒りのまなざしを向けてから、美麗に向けて言い放つ。
「あなたの目は節穴ですか、竹原教諭。乙女なら、ほら……ここに」
そう言って、凪はスラックスのポケットからメロンソーダ味の飴玉を出した。
きょとんとする三人。
「……それはなんだ。なんなんだ、遠山」
「飴玉……それもメロンソーダ味の飴玉、です」
彰人と桜が噴き出したかと思えば、こらえきれずに笑い出す。
なおも美麗は険しい顔つきのまま、凪に問いただす。
「誰からもらった?」
「真実はいつも真実とは限らない……その前提で話すと、通りすがりの女子中学生から奪った一品です」
迷言になることを承知の上で、凪は真実に一番近い真実を答えた。
彰人と桜の笑い声は急に途絶え、シンと静まり返る教室。
今や、凪を見る美麗の目には恐怖といったものが浮かんでいて、それは許されざる犯罪をしてしまった狂気の教え子を見るまなざしだった。
「そうか……では聞くが、遠山。貴様、なぜそんなことをしでかした?」
「……ストレスというものは怖いですね。ストレスを感じたら最後、ぼくはぼくでなくなってしまうのだから」
「……いいか、遠山。このあたしが貴様にひとつ教えてやる」
「ええ、どうぞ。なんなりと」
「卑劣漢というのは、貴様のことを言うんだ。……分かるな?」
「家に帰ります!」
「帰れ!」
「さようなら」
「ああ、二度と来るな」
凪はさっさと下校準備を済ませると、とっとと学校から出て行った。
吹き荒れる風にいら立ちながらも、凪はズンズンと歩き、帰路についた。
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