愛する妻からのおかえり

day30

仕事から帰りテーブルの上のタブレットを触る。大好きな妻が映し出された。
「ただいま」
「おかえり。少し前にも聞いたけどもうこの生活慣れた？」
「慣れ……慣れるわけないだろ。辛いよ。毎日が辛いよ」
「慣れて貰わないと困るんですぅー。あとどれぐらい撮れるかわからないから、今のうちに慣れてよね。私が居なくなっても、私の分までしっかり生きて貰わないと」
画面の中の妻はイタズラなほど万遍の笑みだ。

妻が病気で亡くなって一ヶ月が過ぎた。元気なときに撮っておいてくれた妻からのおかえりの会話。病室で撮っているはずなのに辛そうな顔は一切見せない。
データの残りの数が随分少なくなっている。妻に会えなくなるのも時間の問題だ。

失ってみて初めてわかるその存在感。
視界は歪んでいた。妻はもういない。

タブレットを触ると妻は消えた。