戻らぬへそくり

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戻らぬへそくり

 後日、多絵が血相変えてオレの部屋に入ってきた。 「ちょっとあんた! 私のへそくり盗んだわね! 返してよ! あれは西山さんから投資のやり方を聞く勉強代なのよ! 今夜食事に行くことになってるんだから!」  バカなこと言ってんなよ。  素人が投資したって稼げるわけないだろうが。 「多絵、安心しろ。オレはすでに500万稼いだも同然だ。いや、オレなら1000万すら稼げるかもしれない」  そしてオレは事情を説明した。事の経緯を詳しく、司法書士までついてるということも。 「⋯⋯あんた、何騙されてんの? そんなうまい話あるわけないじゃん。そんなことで私のへそくりを使い込んだの? お金返してよ! 西山さんが待ってるの!」 「多絵こそ騙されるな。西山は信用できない。だがオレには司法書士がついてる。もしも西山が多絵に手を出したらどうする。オレはこれから稼ぎまくる。安心してオレについてこい」 「それこそ信用できるか! 一山いくらの人間のくせに、西山さんと比べられないわ!」  そのとき、家のチャイムが鳴った。   多絵が顔をしかめながら対応する。相手は郵便局員だった。  多絵が大きな封筒を手に戻ってくる。 「司法書士事務所から。何よ、開けて見せなさいよ」  オレはニヤケて封を開ける。中には何枚にも及ぶ書類が入っていた。 「多絵、やったぞ! オレは見事に一山当てた!」 「はあ?」 「これを見ろ!」  そこには山形県のとある山の山林売買契約書とあった。  オレは文字通り「一山当てた」のだ。  山を持てるなんて浪漫すぎるだろ。  だが多絵は天を仰いだ。 「⋯⋯このバカ、山なんて買ったのか。山はなかなか売れないのよ。定期的なメンテナンス費用もかかるし、用途が限られすぎてて不動産会社にも売れない。そのうえ固定資産税や住民税は発生するし、年間いくらかかると思ってんだ」  え⋯⋯? 「でも、農地にしてビジネスすれば! 物価高騰だし、野菜を作れば稼げるさ!」  多絵の顔がみるみる怖くなっていく。 「農家はめちゃくちゃ大変だし、経費もすごいんだよ! 物価高騰だって言ったって、野菜の卸値はそんなに上がらない。農薬は5割増しぐらいになってるらしいし、気候によって左右される。農家ナメんな! だいたい山を畑にする費用はどうするつもりよ!」
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