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「あ……」
狼男の体から毛が消えていったかと思ったら、そこには人間の姿をした父さんがいた。
「何だ?」
「いつもの姿に戻っている」
父さんは自身の両手を交互に見る。そして、腕時計を見る。
「そうか。家に入ってから三分が経過したからな。俺は月の光を浴びずにいると、三分間で人間の姿に戻るんだ」
ほっとした。父さんが人間の姿に戻ることができて。
「それじゃあ、質問の続き。僕を塾に行かせず、家庭教師を付けたのも、友達と花火大会に行きたいと言った時に猛反対したのも、さっきと同じ理由?」
「そうだ。すまない。俺が人狼であるばかりに、いろいろと苦労をかけてしまって」
「…………」
僕は何も言えなかった。「なんで僕を生んだんだ」という質問は愚問だ。父さんと母さんが愛し合ったからこそ、僕はここにいるんだろうし。
いい学校に入りたいと思っているのは事実だし、僕は生まれてきたことを後悔していない。だが……
それでも「そんなことないよ」と言えなかったのは、中学受験の勉強がきついと感じているからだろうか。
「さて、人間の姿に戻ったことだし、改めて言うぞ。ただいま」
微笑みながら、父さんは言った。
「おかえりなさい、あなた」
母さんもまた、微笑みながら言った。
「おかえり、父さん」
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