勉強する理由

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「ただいまー」  父さんの声だ。 「おかえり」  母さんの明るい声が聞こえてきた。きっと、父さんが帰って来たから、玄関に向かったんだろう。  部屋の扉を開け、階段を下り、僕もまた玄関に向かう。  父さんに聞きたいことがある。  なぜ遅かったのか、どうして一流の学校を、ホワイト企業を目指す必要があるのか、などなど…… 「おかえり、父さ……!」  玄関マットの上に一人の人間が突っ立っている。  ……いや、突っ立っているのは、人間ではなかった。  背広の袖から出ている手は、毛むくじゃらで、毛の色は銀色。  顔はシベリアンハスキーにも四国犬にも似ているが、より強面な印象を受ける。とどのつまり…… 「うわあーっ!!! 狼男(おおかみおとこ)だーっ!!!」  僕が逃げようとすると、 「落ち着いて! お父さんよ!」  母さんが僕をたしなめた。 「え……?」 「この姿ではわからないか。俺だよ。賢司(けんじ)だよ。お前の父さんだよ」 「……どうして、そんな姿になったの? もしかして、狼男なの?」 「そうだよ。狼男、人狼(ワーウルフ)だよ。帰宅中にうっかり、満月を見てしまったから、変身してしまったんだ。お前がもう少し大きくなったら話そうかと思っていたんだけど、今日、遅くなってしまってな……」 「なんで遅くなったの? 残業?」 「そうだ。今日に限っててこずってしまってな。会社を出たら、空に月が出ていた」 「それだけじゃないでしょ?」  父さんはフレックスタイムを活用して、朝早く出勤する代わりに、日が暮れる前に帰ってくる。  少し残業があっただけで、ここまで遅くなるはずがない。
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