第二章 青春乙女作戦 二人の料理人

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第二章 青春乙女作戦 二人の料理人

 翌日――四月十五日の土曜日。  いつものごとく、志貴の父、洋介は仕事の会議があり、朝早くから会社に行っていた。  志貴の母、明日香(あすか)はきのうのショックの影響もあってか、朝は元気だったが、昼前には部屋に戻り、寝込んでしまった。  志貴の姉、蓮華はいつものように部屋で高校受験の勉強をしていた。  志貴はというと――。 「ははっ。困った、実に困った。おれの昼食、誰か作ってくれませんか……?」  もうすぐ正午だが、誰も昼食を作ってくれる料理人はいなかった。  仕方がないので、リビングにいた志貴はスマートフォンで蓮華に電話をした。  が、通話が始まるなり、蓮華は「勉強の邪魔、し・な・い・で・く・れ・る……?」と怒りの言葉を口にし、すぐに電話を切ってしまった。 「うっ、うっ! うぅ……」  志貴はうめき声を上げながら、十六畳ほどもあるリビングダイニングキッチンの床を這いずり回っていた。  そんなときだった。  インターホンのチャイムの音が鳴り響いたのは、そんなときだった。  それはエントランスのインターホンから鳴らされたチャイム音。 「まさか……宅配寿司か! いや、宅配ピザかもしれない。どれどれ」  志貴はインターホンのモニター親機の前まで行き、画面を見た。  モニターに映る人物――羅奈と冬華を見て、思わず志貴は「むっ」とうなった。  このとき、志貴は羅奈だけを家に招き入れるつもりで……つまりは冬華には帰ってもらうつもりで、通話ボタンを押した。 「よう、お前ら。メリークリスマス」  そう志貴がボケをかますと、羅奈と冬華は互いに見つめ合ってから、気まずそうに「メリークリスマス……」と返事をした。  どうやら、志貴渾身のボケはウケなかったようだ。  穴があったら入りたい、そう思うほど、志貴は恥ずかしさを覚えた。  志貴は叫びたくなる衝動を抑えながら、「どうしたよ、お前ら。腹が減ったおれのために、昼食でも作りに来てくれたのか? なら、料理人は羅奈だけで結構だぞ」と二人に尋ねた。  すると――。 「そのとおりだし。ウチら、人間のクズのあんたのために昼食を作りに来たんだけど……まさかウチ、帰れって言われてる? ひっど~。  さすがは人間のクズじゃん。キャハッ」  そう冬華は愉快げに言うと、ヘラヘラと笑った。 「え、どうしてお前ら……え?」  混乱する志貴。  羅奈は「えっとね、志貴くん」と言ってから、志貴に経緯を説明した。 「きのう、朝のショートホームルームが始まる前、ボクと冬華は蓮華先輩と連絡先交換したんだけど……そしたら、さっき蓮華先輩からメールが来てさ。  腹ぺこの志貴くんのために昼食を作りに来て、そう蓮華先輩から頼まれたんだ」 「マジか。それは助かる、マジで助かるぜ」  二人には見えないけれど、志貴はペコペコと頭を下げた。  そのとき、冬華が舌打ちした。 「あのさぁ……なら、さっさとドアのロックを解除してくれない? ウチら、暇じゃないんで」 「た、ただいまお開けします。ささ、羅奈様、冬華様……お入りください。ようこそ、『トールハウス滝灘』へ」  志貴はオートロックのドアを解錠し、羅奈と冬華をマンションの中に入れた。  その後、志貴は早足で玄関に向かうと、扉の鍵を開け、ふぅと息をついた。  これでよし、と志貴はリビングに引き返し、再びモニター親機の前に立つ。  そこでチャイムが鳴るのを待った。  しばらくすると、家のチャイムが鳴った。  志貴はインターホンの通話ボタンを押し、「開いているよ」とわざとぶっきらぼうに応答。  羅奈と冬華は東堂家の玄関に入ると、何やら騒がしくしていた。  志貴はリビングの出入り口付近に立ち、今か今かと料理人二人を待っていた。  そして今、東堂家のリビングに料理人二人が姿を現した。
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