殺し屋だけど樹海で異世界の王子を保護したので密かにボディガードやらせて頂きます。

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「ここは何処でしょう?」 「F山の樹海ですよ」 「樹海?」  男は辺りを見回し、困惑を顔にあらわし、由美に顔を戻した。 「良く分かりません。どうしてこんなところに……。私は、川に落ちたはず……」 「川?」  その割に、男の服は濡れていなかった。転移の影響で乾いたのだろうか。 「流れついたのでしょうか」  首を傾げながら男が言った。 「でも、この辺りには人が流れ着くような川岸が無いです」 「ですね」 「ですね」  由美は、このままここにいる訳にもいかないと思った。 「完全に暗くなる前に移動しましょう。立てますか」 「はい」  由美は、男に手を貸そうと右手を差し出した。男の大きな手が由美の手を掴む。汗でひんやりとしている手の感触に由美は思わずドキリとなり、支えようとする腕に力が入る。  男が立ち上がる時、一瞬、二人の顔が近づいて目が合った。男の――もう勝手に王子と呼ぼう――の青い目が由美の目に釘付けとなる。膝を伸ばして立ちあがった王子(仮)は、由美より頭ひとつ背が高かった。王子(仮)は由美から目を離さず、柔和に微笑んだ。薄暗い中でも、彼の頬が紅潮しているのが分かった。 「なんて、勇敢で美しい方でしょう。名は何と?」  由美は、生まれて初めて聞く称賛の言葉に、身体が熱くなる。 「由美です」 「ユミ……。美しい名だ」  王子(仮)は、とろけるような目で由美を見つめた。  ――いや、あの、ちょっと。王子ってみんなこういうもん?  由美は、慌てて王子(仮)から手を離す。 「暗くなりますから! いったんここを離れましょう。話はそれからで」 「そうだね」  王子(仮)はそう言って、さり気なく由美の背に右腕を回した。  ――なんとエレガントな仕草なのでしょうか。  由美は、感心しながらも、気恥ずかしかった。
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