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二人は樹海の出口に向かって歩いていた。
黙っているのも気まずく、由美が尋ねる。
「名前はなんとおっしゃるのですか?」
「モリス家のキーズだよ」
「モリス家というのは?」
「うーん。自分で言うのも憚られるんだが、父は国王をつとめているよ」
――本当に王子だった。
由美は、心の中で驚きの声を上げた。
「殿下は、どうして川に落ちたのですか」
キーズは、うーんと唸る。
「それが、記憶がはっきりしなくて。何かから逃げていたような気もする」
――落水の衝撃で、記憶障害になっているのかも知れない。
話をしながらも、歩を進める由美とキーズ。
次の一歩を踏み出した時、急に樹海の暗がりから視界が開けた。
広々とした夕暮れの空が由美の目に飛び込んできた。
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