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由美は、有名な山の麓にある樹海の中を歩いていた。
夕方と言っていい時間帯。ここは既にかなり暗い。
明るい時間帯にはハイキングや、散歩に来る人もいるらしいが、しかし彼女は散歩に来た訳では無かった。
周りは高低のある広葉樹が乱立している。頭上の隙間からは日の光が辛うじてぼんやりと入って来る。
登山客のような恰好をした由美は、シダが生い茂り苔むしたでこぼこ地面の上を歩く。
ところでこの樹海には、入ったら出られない、という俗説がある。樹海には強い磁気を帯びている場所があり、確かに場所によって方位磁石を狂わせた。たが、実際には迷う程の狂いではなかった。
なので、今、由美の足を止めたのはそれとは違う理由であった。
由美の視線の少し先の場所で岩を背にして眠りこけている――ように見える人間を見つけたからだった。
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