①僕のこと、忘れないで

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「僕のこと、忘れないで」 いまにも泣き出しそうな声で、きみは言った。 不安の九割は、的中しないらしい。 でも、きみはエスパーだ。17歳のきみとの思い出を、声を、わたしは忘れていってしまうだろう。時の流れは、残酷なのだから。 きみはエスパーだ。 大事なことに、よく気がつく。 「もう、バカね」 だけどね、おかしいの。笑っちゃうの。 頭がいいくせに、どこか抜けているんだから。 わたしは忘れんぼさんで、時の流れは残酷で。 消え失せてしまうものはあるけれど。 ねえ、――だから、人は手をつなぐんだよ。 わたしの願いが、きみに届きますように。 きみの悲しみが、長い時を経て、優しくなりますように。 繊細なきみの手は、意外にもごつごつとしていて、あたたかい。 その事実に胸がきゅぅんっとして、苦しいくらいよ。 いまはまだ、教えてあげないんだから。 (おしまい)
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